もう一本Unextの新規配信作から…ここのブログで最も短い僅か26分の短編ですが、なるほど、DVDが作られるほどのクオリティはさすが名職人カン・ジェギュだけある、と思わせる文芸小編…「あの人に逢えるまで」

 

チェ・ヨニは弁当を持ってバスで北に向かっている。道沿いには鉄条網で隔てられた川が見える。やがてバスは警察車両に止められる…下町で伝統的な韓屋(ハオク)に住むヨニの一日はアメリカに住むサラの電話から始まる。サラは愛のない両親から生まれたと嘆く独身主義者だ。ヨニの部屋はメモだらけだ。記憶が薄れていくのだ。それでも二人分の食事を作り、男物の革靴を磨き、愛するミヌ氏の帰りをこの家で待っている。そして今日も北出身者が集まる店でミヌ氏の好きなピョンヤン冷麺をすする。店を出る時、声をかけてくる人がいる。「ピョンヤン女学校のご出身?」そして老婆たちに交じって踊り積み木を積むのが日課だ。そんなヨニに思わぬ報せが舞い込む…

 

チェ・ヨニに、彼女が出演するだけで五つ星にしたくなる美形ムン・チェウォン、現在のヨニに、60年代から舞台に立ち最近では「アイ・キャン・スピーク」など存在感を見せるアラエイのソン・スク、彼女が待ち続けるキム・ミヌ氏に、正統派二枚目コ・ス、ヨニの娘サラに、「愛の旋律」ヒロインの美熟女ユ・ホジョン、いつもユニに声をかける美容師キム氏に、最近出番が少なく寂しい思いをしている名コメディアン、キム・スロ。

 

1時間ドラマにも満たないわずか26分の短編作品なのに単体でDVDが発売され配信される…不思議だとは思ってましたが観て納得の出来栄えだと思います。60年(後述)という長い離散家族の悲哀を独特の映像表現で描く「シュリ」や五つ星「チャンス商会」カン・ジェグ監督の腕前はさすがというべきでしょう。ヨニという女性をダブルキャストで演じる重厚なソン・スクと美貌のムン・チェウォンが演じる様も見事だと思います。

 

DVDを買ってもこの短さに激怒しなかっただろう、と言えるか?にはさすがに自信はありませんが、きちんと構成され映画の骨格を忘れない作劇法は十分”映画作品”と呼べる風格を持っていると思います。ほんの隙間時間にでも配信で観る、と言うのはあり得る選択だと思います。

 

ちなみに、劇中に描かれる、”第18回離散家族再会行事”が突如中止になった、というのは朝鮮戦争開戦後60年にあたる2010年に実際にあった事実のようで、その後第19回が催されるまで3年4か月の月日が必要だったとあります。高齢化していく離散家族を思うと実に残酷な現実なんでしょう。

 

尚、物語の中盤ヨニが市場に買いものに出かけるシーンで流れる切ないバラードは、イ・ムンセ(이문세)1988年「시를 위한 시(詩를 위한 詩:詩のための詩)」。