垂涎の配役陣で前から気になっていた…奇才チャン・リュル監督が「慶州」「春の夢」の間に撮った作品ですが、確かに監督の映画愛は感じるとしても、少しアバンギャルドが過ぎる実験作…「フィルム時代の愛」

 

【1場 愛】〔モノクロ〕精神病院。掃除婦が掃除用具を整えている。祖父に面会に来た孫娘が<miss A>をイヤホンで聴きながら待っていると、看護師が迎えに出てくる。看護師の話では、祖父はあの掃除婦がお気に入りのようだ。孫娘が隣に座ると祖父はギターを弾く動きを見せ、耳を澄ませ、と言う。孫娘が林檎を剥こうとするがあまりに下手なので、祖父が林檎とナイフを取り上げ鮮やかに剥き、掃除婦に食べさせようとする。しかし掃除婦は受け取らない。二人が押し付けあっている内、林檎が転がっていってしまう。掃除婦はナイフを持ったままの老人に気付き恐怖から逃げ出し、老人がその後を追う。スロープの突き当たりで老人が掃除婦に追いつくが、掃除婦がナイフを取り上げ…〔カラー〕ここで監督の「カット!」の声がかかる…

 

照明部スタッフに、ともかく最近絶好調のパク・ヘイル、入院中の祖父に、韓国が世界に誇る名優アン・ソンギ、病院清掃婦に、韓国に4人しかいない4大映画祭個人賞受賞女優ムン・ソリ、祖父の見舞いに来る孫娘に、超のつく演技派女優ハン・イェリ。

 

作品は4場からなっていて、【1場 愛】〔モノクロ〕精神病院を舞台にした物語〔カラー〕その撮影の「カット」「OK」後の騒動、【2場 フィルム】16mmフィルムによる主に病院のスケッチ映像、【3場 彼ら】1場出演のパク・ヘイル、ムン・ソリ、アン・ソンギ、ハン・イェリの過去作「殺人の追憶」「ペパーミント・キャンディ」「光州5・18」「帰郷」の4本を無声映画風に再構成し字幕で1場の物語を展開(使用場面は後述)、【4場 再び愛】1場の物語をそのまま俳優抜きで再現…という具合にかなりシュールな作品になっています。チャン・リュル作品は表現方法が尖ることがあっても、物語がシュールと感じたことはないのでかなり違和感の強い作品となっています。ただ、【1場 愛】の名優たちの過去の名演をモンタージュした【3場 彼ら】は魅力的ですし、【1場 愛】から名優たちの“姿”を消した【4場 再び愛】も独特の映画世界を展開していると感じます。

 

チャン・リュル監督作を好意的に見慣れた者からすると、かなり居心地の悪さを感じるのは事実ですが、いつもの“異邦人”というテーマから離れ、彼にとっての“映画”が何かを懸命に追及している、ということは感じられるかもしれません。いずれにしろ、かなりの冒険作、実験作だと思います。

 

尚、【3場 彼ら】で使われたシーンは以下の通り。「殺人の追憶」は刑事キム・サンギョンとソン・ガンホが容疑者パク・ヘイルを厳しく尋問するものの結局は取り逃す場面、「ペパーミント・キャンディ」は病室で意識のないムン・ソリと再会してソル・ギョングが泣き崩れる場面、「光州5・18」はアン・ソンギが制圧軍に背中から撃たれる場面、「帰郷」(未見ですが)は妊娠したハン・イェリが部屋で赤ん坊を産み落とす場面です。

 

ちなみに、冒頭ハン・イェリが聴いているのは、伝説の名ガールズグループ<miss A>の4人揃ってのデビュー曲“Bad Girl Good Girl”。