さて、次は2020年のTop10を、と思ってランキングを眺めてましたが、どうやら新型コロナが猛威を振るい出した年のためか、それまでのランキングとちょっと違和感があったりするので一旦横に置きます。そこで、「82年生まれ、キム・ジヨン」にゆかりのチョン・ユミ、コン・ミンジョンが出演していたこともあり、ブログを休止していた5年間で10本を公開したホン・サンス監督作品をできるだけ観ようと思います。再開1本目はホン・サンス監督第18作…「あなた自身とあなたのもの」

 

ヨンスの部屋を友人チュンヘンが訪れる。初めは危篤のヨンスの母親の話だったが、やがてヨンスの恋人ミンジョンが話題になる。チュンヘンによれば、バー”金星”でミンジョンが酔って見知らぬ男に絡んだという。ヨンスは、ミンジョンには焼酎5杯、ビール2瓶までしか許してないので、そんな筈はない、と否定に躍起だ…”Cafe Gon”で一人の女性がコーヒーを飲んでいると、既婚のチェヨンが入ってくる。その女性に目を止めると「ミンジョンじゃないか」と声をかけるが、女性は否定する。チェヨンは一旦店を出るが、納得できず店に戻り、女性に「やっぱりミンジョンだろう」と詰めよる。女性は「実は…」とミンジョンという双子の姉がいると言い出す。こうして二人は会話に花を咲かせる…ミンジョンがヨンスのアパートに帰ってくる。ヨンスは、バー”金星”の件で約束を破ったとミンジョンを責め立てるが、ミンジョンは否定し、自分より悪友を信じるのか、とアパートを出て行ってしまう。こうしてヨンスの苦悩の日々が始まる…

 

キム・ヨンスに、本作公開後1年もせず交通事故で他界してしまうキム・ジュヒョク、ヨンスの恋人ソ・ミンジョンに、「アトリエの春」で鮮烈デビューのイ・ユヨン、ヨンスの旧友チュンヘンに、ホン・サンス作品常連キム・ウィソン、職業不詳チェヨンに、彼も常連クォン・ヘヒョ、監督らしいサンウォンに、彼も常連ユ・ジュンサン、飲み屋で落ち込んで飲むヨンスを慰める眼帯の女ソヨンに、「82年生まれ、キム・ジヨン」でチヨンの姉を好演、この後もホン・サンス作品に出るコン・ミンジョン。

 

やはり、「ミンジョンではない」とあっけらかんと否定する女性が誰か、に興味がいってしまい、多重人格か、とか、パラレルワールドか、とか思い巡らしたりするわけですが、それも当然ホン・サンス監督の狙いなんでしょう。個人的には、直前に、キム・ジヨンという名前や個性では認識されない女性の苦悩を描いた作品を観ていたためか、(世間的には酒に溺れ尻軽な)ソ・ミンジョンという名前や個性でしか認識されない女性、その枠組みからの逃避、みたいなものがテーマか、と感じたりします。まぁ、いずれにしろ、理屈で観る作品ではないので、サバサバしたミンジョン(もしくはミンジョンに似た女性)に対する、未練タラタラのヨンス、下心があふれ出る二人の中年男の無様を楽しめば良いんだろう、と感じます。それにしてもイ・ユヨンは巧い。ミンジョン、もしくは、見知った女性として声をかけられるシーンが三回ありますが、その時のリアクションが微妙に異なり、彼女の芸風に改めて惚れ込んでしまいます。

 

ホン・サンスらしい脚本的なヒネリというより、イ・ユヨンの演技に頼って成り立ってる感じがあるので、五つ星は見送りますが、久しぶりにダラダラしたホン・サンス節に穏やかな気分になれる相変わらずの名編だと思います。念のため、エンドロールでの「作った人々」がわずか16人、ロケ地わずか7か所、という小品なので、映画的スケールを求めるのは無謀というものです。