ソン・ガンホ主演、五つ星、「タクシー運転手 約束は海を越えて」

 

パク・チョンヒ大統領が暗殺されて半年余り、軍部クーデターで成立したチョン・ドファン政権への反発が強まる1980年春、漢江沿いを緑色の個人タクシーが走る。運転するキム・マンソプは、大声でチョ・ヨンピル「短髪」をがなりたてているが、やがて渋滞に巻き込まれる。戒厳令に反対する学生たちのデモだ。家に帰ると幼い娘ウンジョンがふて寝している。顔に傷があり、家主の息子サングの仕業と分かると家主に怒鳴り込みにいくが、サングの顔も傷だらけで、しかも滞納する家賃のことでやり込められる始末だ。5月20日、緊迫する韓国情勢を取材するため金浦国際空港にドイツARDの記者ヒンツペーターが宣教師と偽り入国する。ソウルのイ記者から光州が緊迫していると聞き、現地へ行くことを決意する。マンソプは食堂で、別の運転手が光州へ外国人を運ぶ話を耳にする。国都(ククト)劇場の前で拾うという。金に困っているマンソプは一足早く劇場に向かい、ヒンツペーターを乗せる。こうして二人は、予期せぬ悲劇の待つ光州へと向かう…

 

しがないタクシー運転手キム・マンソプに、今や世界的名優ソン・ガンホ、実在するドイツ人記者ユルゲン・ヒンツペーターに、「戦場のピアニスト」「キング・コング」『24』など顔を見たことがあるかもしれない東ドイツからの亡命経験があるThomas Kretschmann、光州のタクシー運転手ファン・テスルに、主演作も多いユ・ヘジン、光州の大学生ク・ジェシクに、「スピード・スクワッド」など主演が続くリュ・ジュニョル。 特別出演では、ソウルイ記者に、渋い名優チョン・ジニョン、大家でサングの父親に、大好きなコ・チャンソク、サングの母に、こちらも「スピード・スクワッド」など巧いチョン・ヘジン。監督は、全然合わなかった「義兄弟」、五つ星「高地戦」と起伏の激しいチャン・フン。

 

光州事件を扱った映画は多く、ここのブログでも少なくとも重要な背景になっているのだけでも12本あり、そのうち「つぼみ」「光州5・18<華麗なる休暇>」「スカウト」「26年」が五つ星だったりします。そして本作を5本目の五つ星とするしかないでしょう。悲劇に向かい必死で走るタクシー、当然待ち受ける惨状、帰還と後日談で構成された脚本は見事で、ソン・ガンホは勿論、光州でのユ・ヘジンとリュ・ジュニョルの演技も光ります。また、当時の世相が匂ってくるような演出も、ちょっと余計かも、と思わせるカーチェイスを除けば文句なしでしょう。

 

悲劇が名画を生むという歴史の皮肉にはズキズキ痛むものがありますが、素直に絶賛したいと思います。

 

備忘録ですが、事件前の国都劇場にかかっているのは、1980年5月16日公開キム・ソンギョン監督「춘자는 못말려(春子(チュンジャ)は止められない)」というコメディーで、事件後の冬にかかっているのは、「憎くてももう一度」シリーズのチョン・ソヨン監督「너는 내運命(君は僕の運命)」と、後に「家族シネマ」などを撮るパク・チョルス監督「아픈成熟(痛い成熟)」というメロドラマのようです。

 

全くの余談。邦題に付けられた -約束は海を越えて- という副題ですが、名作に何故こんな余計なものを付け加えるのかといささか呆れています。何せ、韓国とドイツは陸続きで、海を越える必要なんてないのですから…