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「バッド・ムービー」「LIES 嘘」「リザレクション」の異才チャン・ソヌ監督が光州事件を強烈に描く、「つぼみ」。

廃倉庫に住む建設労働者は、クムガン(錦江)のほとりでボロをまとった少女と出会い、衝動的に犯してしまうが、少女は彼を「オッパ」と呼び、廃倉庫に住みついてしまう。少女は、虚ろな目をし、時折、狂笑し、泣き叫ぶが、男は、虐待しながらも、次第に愛着を覚えていく。一方、死んだ友人の15歳の妹が光州事件で姿を消したことを知った四人組が、少女捜索の旅を続けていた…

建設労働者に、文芸映画にはなくてはならない演技派ムン・ソングン、少女には、後に『美しき日々』セナ役や実力派歌手として名を売る当時16歳のイ・ジョンヒョン。少女を探す四人組には、これがデビュー作でこの後最高の演技派俳優へと登りつめていくソル・ギョング、やはり映画デビューでこの後キュートな演技派女優の道をいくチュ・サンミ、最近でも「光州5・18」「スカウト」と光州事件を描く映画には欠かせない名脇役パク・チョルミン、そして、他に出演歴がないナ・チャンジン。少女の母親には、「ブラザーフッド」などのイ・ヨンウン、少女を知る男に、個性派演劇俳優パク・クァンジョン、他にも、パク・チュンソン、ホ・ジュノ、ミョン・ゲナム、ユ・スンチョル、アン・ソックァン、ユ・テホ、オ・ジヘなどそうそうたる顔ぶれがチョイ役で顔を見せてたりします。

なにせ「バッド・ムービー」「LIES 嘘」「リザレクション」とか無茶苦茶(必ずしも悪い意味ではありませんが…)な映画を撮るチャン・ソヌ監督作品なので、ながらく敬遠していましたが、見てビックリ。強烈ではありながら驚くような完成度を持った作品です。キム・チュジャ(金秋子)が歌う「花びら」(この映画の原題「꽃잎」)をバックに光州事件の生々しいニュース映像が強烈な印象を与えるプロローグから始まる物語は、主に三つのパートが、DNA螺旋のように捩れながら進んでいきます。一つは、粗暴な中年男と狂った少女の物語、もう一つは、少女を探し続ける四人組のチャンハン(長項)やテチョン(大川)など西海岸を彷徨うロードムービー、そして最後は、モノクロで少女にフラッシュバックする光州事件の悲惨な記憶です。これらの物語が一見無防備に散開する前半が、空間的に時間的に収斂していく後半の素晴らしさは例えようもなく、また、深く重いエンディングも、えも言われぬ余韻を残して秀逸です。それにしても、当時16歳のイ・ジョンヒョンの演技の凄まじいこと。あどけない笑顔でキム・チュジャの歌を歌う光州事件前、到底信じられない悲惨な戦場のような光州事件当日、惜しげもなく全裸をさらし狂笑し絶叫する狂った現在、この三つを使い分ける16歳の演技は神がかり的とも云えるでしょう。特に、ムン・ソングンが嫌がる全裸の彼女を風呂に入れるシーンは、韓国映画史上に残る屈指の名シーンだと思います。

原題も、キム・チュジャの曲名も、英題も、すべて「花びら(꽃잎:Petal)」なのに、何故邦題だけ「つぼみ」となったかだけは合点がいきませんが、共に五つ星「光州5・18(華麗なる休暇)」「スカウト」という秀作に並んで、光州事件を描く三つ目の五つ星作品です。

ちなみに、四人組が掲げる尋ね人のプラカードでは、158(実際のイ・ジョンヒョンと同じ)という身長、80年5月21日という失踪日、イ・ジョンヨンという少女の名前などを見ることができます。