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キム・テフンつながりで、上出来ダーク・ミステリー、「パラレルライフ」。

リンカーンとケネディのように二人の人間が別の時代で同じ人生を送るとする「平行理論」を見いだしたソン・ギチョル老教授が、妻殺しの疑いで取り調べられている。教授自身は、オーストリア生まれの数学者クルト・ゲーデルと同じ人生を歩んでいると主張する。ソウル高裁判事キム・ソッキョンは最年少で部長判事に昇格し、美しい妻、幼い娘と共に瀟洒な自宅で盛大なパーティを開いている。パーティの最中、家族の危険をほのめかす怪しい電話があり、また、やはり判事である義父と妻の言い争いを立ち聞きして、ソッキョンは不安を覚えるが、次の事件であるソン老教授事件に没頭する。そんなソッキョン判事に新聞記者カヒが近づき、ハン・サンジュン判事という最年少の部長判事が30年前にもいたと耳打ちする。そして二回目の強迫電話の後、妻ユンギョンの惨殺体が発見される。記者カヒは、ハン・サンジュン判事の妻も30年前の同じ日に殺されたと言う。次第に「平行理論」を信じていくソッキョンは、近づく1月25日にハン判事と子供、事務官の三人が惨殺されたことを知り、運命の連鎖を断ち切るべく30年前の事件にのめり込んでいくが、また新たな犠牲者が出て…

ソウル高裁キム・ソッキョン部長判事に、「家を出た男たち」とは打って変わってシリアスなチ・ジニ、同期のイ・ガンソン検事に、今回は怪しさが絶品の演技派イ・ジョンヒョク、ソッキョン判事の事務官ジョンウンに、「インフルエンス」ではオッド・アイを演じたパク・ピョンウン、ソッキョン判事の妻ユンギョンに、色香漂うユン・セア、幼い娘イェジンに、可愛い名子役パク・サラン、ソン老教授に、映画一家の重鎮オ・ヒョンギョン、ソウル高裁長官に、ドラマでお馴染みパク・クニョン、一連の事件の犯人として逮捕されるスヨンに、もはや超のつく名優ハ・ジョンウ。ちなみに、キム・テフンは、30年前のハン・サンジュン判事の事務官役。

ともかく物語の巧みさに舌を巻きます。きっと原作は売れただろうと思って調べると、何とオリジナル脚本のようで、あのトリッキーな名サスペンス「仮面」の脚本を書いたハン・ジュンエだと知り、実に納得です。「平行理論」自体はコラーゲンとかデトックスみたいな疑似科学だとは思われますが、映画全体に漂う超自然的でおどろおどろしい雰囲気とは別に、物語の展開や登場人物の行動が実に合理的で、その緻密な物語構成は超一級品だと思います。推理小説には、ヴァン・ダインの二十則、ノックスの十戒という有名な鉄則がありますが、超自然的な要素はダメという意味では、完全にクリアしているでしょう(ただ、別の項目では、両方に反した”禁じ手”を使っていますが…)。演技陣も完璧でしょう。どんどん壊れていくエリート判事を演じるチ・ジニは勿論、回りを取り囲む怪しげなイ・ジョンヒョク、パク・ピョンウン、パク・クニョンが良いですし、何より、端役程度にしか登場しないながら映画の重心のような役割を果たすハ・ジョンウの存在感には、いつもながら驚かされます。

冷静に振り返ると、物語展開自体が救いのない陰惨なものなので、かなり好き嫌いが分かれるとは思いますが、ホラー並にダークな雰囲気と極めて知的な語り口が大胆に調和した希有な秀作ミステリーだと思います。既にDVDがリリースされているので、ミステリー好きなら、試してみる価値があるかもしれません。