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も一回「ここよりどこかへ」から、キム・ビョンオクつながりで、「マラソン」「スーパーマンだった男(星から来た男)」のチョン・ユンチョル監督作品、「よいではないか」。

地方都市。しがない英語教師の父、更年期真っ盛りの母、前世は王であると信じる兄、男に振られ酒を飲んでは泣き暮らす武侠作家の叔母、そして、彼らを観察してはインターネット・ラジオに流す妹。そんな変わった五人家族を、さらに、次々と天変地異が襲う。母は、カラオケのイケメン店員にトキメキを覚え、兄は、好きな娘が援交してると知って人生に絶望し、妹は、変わり者の臨時教師に初めての恋心を覚え、叔母は、元カレに新しい女流作家のカノジョが出来たことを知り狂乱する。そして極めつけは、堅物の父が、援交女子高生とモーテルで横たわる動画で、このため失職の危機に陥る。この家族に、果たして、未来はあるのだろうか…

堅物父に、長い下積み時代を経て40歳辺りから急激に光り始めた遅咲きの名優チョン・ホジン、更年期母に、ミュージカル界では有名だと云うムン・ヒギョン、武侠作家叔母に、国民的スター、キム・ヘス、絶望兄に、「俺たちの明日」で強烈な印象を与え『最強チル』「西洋骨董洋菓子店」とか売れ筋ユ・アイン、不思議妹に、「少女たちの遺言」のその他大勢から始め今や主演級ファン・ボラ、貧しい援交女子高生に、「親知らず」「家族の誕生」など難しい役所を見事にこなす美形チョン・ユミ、イケメン店員に、長身美男イ・ギウ、ホイジンガーに心酔する元映画監督志望の臨時教師に、「グエムル」とかの名優パク・ヘイル。キム・ビョンオクは、妖しげな町の心理療法士。

傑作「マラソン」と「スーパーマンだった男(星から来た男)」の間に撮られた作品なので、気になっていたのですが、さすがに、人間の有り様をきちんと見つめる秀作に仕上がっています。ただ、映画的方法論は、かなり違っていて、この作品は、きわめてブラックな味付けのコメディと云っていいでしょう。出生の秘密、自殺願望、援交、といった暗いキーワード散りばめながら、変わった五人家族の非日常的な日常を辛口の笑いで彩る物語は、それはそれで見事だと思います。やはり演出が巧く、韓国ドラマ・映画定番、家族の食事シーンを五人の後頭部からのショットで描くといった奇手や、月、コーヒーメーカー、スクーター、炊飯器、生理用品、珍島犬とスタンダード・プードル、と云った苦笑い一杯の小道具を駆使して、「家族」の暗部を、ものすごくコミカルに、そして、ものすごくシニカルにも描いていると云えます。監督へのインタビューによると、韓国家族の過度な相互干渉への皮肉がベースにあるとのことですが、個人的には、風変わりな家族の姿を通じて、やはりチョン・ユミが出演した前年の五つ星「家族の誕生」に倣って呼ぶと、「家族の再生」を描いた秀作だと思います。役者の演技も破天荒で、チョン・ホジンはあの無表情を巧く活かしていますし、ムン・ヒギョンとキム・ヘスは、ボサボサ頭、大股開きで下品なおばさんに徹していますし、ユ・アイン、ファン・ボラは理解不能の高校生役を不思議感一杯に演じています。個人的には、父息子二人に関わるチョン・ユミが注目で、貧しい援交女子高生を独特の諦念の中に演じ、映画をきちんと締めていて秀逸です。ちなみに、キム・ヘスと炊飯器が絡むシーンは、近年稀に見る爆笑シーンで、息絶えるかもしれない、と思うほど笑ってしまいました。

残念ながら、あまり多くの観客を集められなかったようですが、「家族」の或る断面を、辛口に、同時に、心優しく描く秀作として評価できると思います。

ちなみに、パク・ヘイルの部屋に貼ってあるポスターは、「月」が物語の重要なキーワードであるため、シェールのオスカー受賞作「月の輝く夜に」と、メリエス「月世界旅行」の月の顔を用いた「The Movies Begin」という映画黎明期作品集のDVDセットのポスターだったりします。