私は地元に学生時代からの友人もいないし、ましてや土地を離れていたので「同窓会」なるものにも出席したことがありません。
地元で「30年会」みたいなものが開催された時に私のことが話題になったらしく、高校卒業後に少し関わっていた男友達からFB経由で連絡があり、翌年の内輪でやる新年会に招待されて出かけてみたことはあります。
でも、結局は話題も合わなくお互いの変化に新鮮に驚いただけで、その後繋がりが続くこともありませんでした。
このスペイン人の友人は私にとって大きな影響を与えてくれた重要人物であるけれど、ずっと繋がり続けていた訳ではありません。
だからこそ再会するにあたって緊張を覚える私がいました。
彼女と会う前にルシウス宅の近所にある修道院を見学しながら、その私の緊張のエナジーを悟ってか彼が言いました。
「人は変わるし、長年後の再会の時にがっかりすることもある。だから過大な期待はしない方がいい」
確かに自由奔放な若い時代に出会って気が合ったとしても、その後の人生の流れで人格が変わることもあります。
苦労をして人生に対してビターな思いを抱えてたり、または相手に対して嫉妬のエナジーを抱く場合もあるでしょう。そうなったとしたら悲しいものです。
まるで昔の恋人にでも再会するかのような想いで、私は彼女を地下鉄の駅で待ちました。
私たちが話し始めてしまえば、昔のようなテンポで軽快に話が弾みました。お互いバツイチで現在に至ってもシングルでいる立場なので、特に大きな世界の違いを感じることはありませんでした。
40歳の彼女に夫と会いにきたバルセロナの自身の記憶がとても遠いことには驚きましたが、それでも彼女との会話で無理矢理記憶を蘇らせようとする私。
「旅人」がアイデンティティになっていた私がこの年齢で体力がガクンと落ち、旅に対する意欲がなくなってしまったこと。その喪失感。
お互い同じ歳だから、その老化に対する気持ちが痛いほど分かるようにシェアできます。
友「とうとう高血圧のための薬飲み始めたしさ」
私「私は高コレステロールの薬よ!」
そう言って二人で笑い出します。
「あと2年でリタイアするしさ。そしたらこんなことしたいのよ私」
プラザのテラス席に座っていたので、彼女がそんな夢のある話をし始めた時には、陽が落ちるのが遅い欧州でもすっかり暗くなっていました。
灯されたテーブルの上のキャンドルが淡く彼女の顔を照らし、うっとりとした彼女の表情は胸を打つくらい美しく見えました。
人は多分、本気で夢を語っている時が一番美しい表情をするのだと思います。
「マリア、今のあなた、すごく綺麗!」
ルシウスの話になり、東欧の旅の最後にジョージアに飛んでトビリシにひと月滞在していた時の宿で知り合ったエピソードを話したら、彼女に大きな反応がありました。
「実は、ラストボーイフレンドがトビリシから来たジョージア男でさ」
なんと63歳の彼女が36歳の男性と付き合っていたそうな!
「兄貴のバンドのメンバーなので、内緒の話なのよ。でも、ベッドが激しすぎてもうついていけないし、相手してあげられないから別れてもらったの」
私「ひゃ〜、私、昔22歳年下のジューイッシュの男の子とデートしてたことあったけれど、現役でその年の差には負けるわ!」
友「もうこの歳だと睡眠時間大切なのよ。健康障害になるわ。もう男いいわ。それも引退」
別れたのいつの話かと思えば「3ヶ月前」と応える彼女。
私「言ってるよ。信用しないわ」
で、二人で大笑い。
私「今現在はWhat's next?(次は何が来る?)って感じかなぁ」
友「確かに。What's next...」
10時をまわり店にも居づらくなったので退散するとして、バスで帰ると伝える私に「この時間だと危ないから私が送っていくから」という彼女。
私「車?」
友「スクーターよ」
昔、フランス国境近い場所に行くのに、彼女の友人たちとすんごくちっちゃなボロ車にぎゅうぎゅうに詰め込まれて座って、窓が壊れていたのでガラスが下がるのを必死で抑えていた記憶があります。それを話すと
友「あぁ、あれ、ママの車だったわ。よく覚えているわね。笑 おしっこしなくちゃいけないから、まず私の部屋に上がって」
そして、彼女の部屋に入ると風変わりなイラスト風の大きなペイントの存在に圧倒されました。それに既視感があります。
私「これ、見たことあるわ」
友「だから言ったでしょ。あなたはここに旦那と一緒にやってきて、私の作ったディナーを食べたんだって。あの時はここに引っ越してきたばかりだったけど、20年以上住んで、今家賃が上がりすぎて住み続けるのも難しくなってきてるわ」
私「私もトイレ借りて行こう」
友「あぁ、洗面台の上にチ◯コあるけど、それ石鹸だから」
確かに用を済ませて手を洗おうとしたら、そこに小さな黒いチ◯コ型の石鹸がありました。それで手を洗います。
私はこのブログで結構なえげつないことを平気で書いてきたけれど、なるほどその原点は彼女だったのね。そう改めて認識してほくそ笑む私がいました。
もこもこダウンジャケットを着込んだ彼女からヘルメットを受け取り、ガレージからスクーターで現れる彼女を待ちます。
友「これ新品のスクーターよ。前は路駐していたんだけど盗まれたからガレージを契約することにしたの」
彼女はルシウス宅までの道順を覚えようと必死でした。スクーターにスマホを固定してgoogle mapを使用している人を多く見かけるけれど、彼女はそれをしていません。多分日常知っている範囲でしか移動しないせいだと推測します。
夜更けのバルセロナの街はさほど混んでいなくて、友人の背中にピッタリとしがみついた私は流れていく街の灯りと不思議な高揚感に包まれていました。
若い頃に出会った今や初老の二人が、また同じエナジーではしゃぎながら小さな旅をしている。それはまるで映画「テルマ&ルイーズ」のよう。
なんとも言えない感動に包まれ、彼女の後ろで泣きそうになる私がいました。
続く