「エリザベスちゃ~ん?エリザベスぅ~っエリザちゃぁぁ~ん?」



ハンさんチのネコちゃんを探し回っていた

ったく…どこ行っちまったんだ?
エリザベスの好物のネコ缶を叩いても歩いてもダメ 、ネコ缶を開けて しばらく待ってみたが 寄ってくるのは 野良ばかり

もう 日が暮れて来て、と言うか…夜になっていた。


時計を見ると19時を少し過ぎた頃だ。
今日ドンへは確か…アレだ月イチで開かれるミンヒョンとリョウギとの食事会。食事会終わりはタクシーで帰って来るから心配ないな。
よし!あと2時間くらい捜してみるか…。

昼間にも一度行ったネコの集う公園にもう一度行こうと思った。




公園を歩き回っている時、トイレの近くで 男2人が言い争っていた。
片方の男の声に聞き覚えがある。
顔を見るとやっぱりチェミンだ。



あの日チェミンの部屋を出て以来、チェミンとは顔を合わせる事がなかった。
チェミンの方がオレを避けているようだったし、オレもなるべく会わないようしていた。

ドンへにチェミンを看病していたと言えた筈だった。
言えなかったのはオレの何処かに疚しい気持ちがあったからだ。

無邪気にオレを信じているドンへを裏切りたくはなかった。
だから もうチェミンと関わるのはやめるつもりだった。



チェミンにもちゃんと恋人がいたのか…

ホッとした。
こいつには幸せになって欲しかったから。

男がチェミンの腕を掴んで引き寄せようとしている  チェミンが抵抗しても男は掴んだ腕をはなさない



「やっ…やめてよう」



チェミンの弱々しい声が聞こえて来たけれど、痴話喧嘩だろうくらいに思い、そのまま踵を返そうとしたら

パンっ!

乾いた音が響いた
男がチェミンの頬を張った音だった



「うっ…やだよ…はなして…」



必死で男の手を振りほどこうとしながら 涙声で訴えるチェミンを男はさらに平手で殴りつけ、トイレの中へ引っ張り込もうとしている


放っておけ
そう思っているのに

関わるな
そう思っているのに

勝手に身体が動いてた。



「おいっ!」



声をかけてから気づく

こいつ…デケぇな



「あ?」



振り向く男の腹につま先を叩きこみ、腹を抑えてしゃがみ込もうとする男の股間を蹴り上げた。



「うぐっ…」



地面に転がって悶絶している男をそのままに、チェミンの手を取ってその場を離れた。



「大丈夫か?」



暫く歩いてそう声をかけながらチェミンを見ると、さっきは気づかなかったチェミンのヒドい格好。
シャツのボタンが弾け飛んでいて 胸や腹に アザや傷が無数につけられていた。



「お前…あいつに…」



レイプされた…のか?

オレの視線に気づくとチェミンはハッとなって シャツの前を手で合わせ 



「あ…りと、、、たたすて…くれて…」



呂律も回らないくらい震えているチェミンを落ち着かせるために、近くにあったラブホに入った。



「チェミン?」



チェミンをベッドに座らせ。優しく声をかけて顔を覗き込むと



「うっ… ごめ…ふえぇ~っ」



ガキみたいに泣き出した 。

ぎゅうっと抱きしめてやる



「大丈夫だから。な?もう大丈夫だ」



背中をあやすように優しく撫でてやると
オレの背中にしがみつくようにして回される手



「ゆっくり息をして…」



ゆっくりと繰り返される深呼吸。






少し落ち着いたらしいチェミンが話出した。



「高校を卒業して、ぼく 地方の美大にいったでしょ?ちょうど父さんの転勤があって、家族であっちに引っ越したんだよ。大学をでてからぼくは一人でこっちに戻ってきたんだ 」



「イラストレーターになるために?」



「なるためってゆーか…絵がかけるしごとならなんでもよかったんだ。それからは毎日、出版社をまわって売り込みをしてたんだ。そしたら子ども向けの物を出してるトコロで気にいってもらえて、契約したんだ。お金も少しだけど入って来るようになった。」


「うん…」


「そうして生活が安定してくると今度は 一人なのがさみしくなって来たんだ…。前までは 絵をかくしごとにつけたら それだけでマンゾクだって思ってたのに…」



本当に人の欲求は際限がないよね…なんて薄く笑う

でもさ…?それは誰でも同じだよ。もっと多くの幸せが欲しい、もっと幸せになりたいと願っているからだ。
だから 次から次へと欲求が出てくる。



「お前…さっきのヤツと付き合ってんの?」


「つきあってた… 。けど、もう終わってる…つもりだったんだ」


「お前の…その身体…あいつが?」


「っ!」


「あいつに…?」


「さいしょは スゴくやさしかったんだ。その時、彼はまだ20で…」


「えっ?年下?」



イカちいからオッサンだと思ったわっ



「今21だよ」


「6つもしたっ?」


マ、ジ、かっ⁉︎



「知りあったのは 1年くらいまえだった」



付き合い始めて暫くすると 男はチェミンのアパートに転がり込んできた。 一緒に暮らし始めて半年ほど経つと男はバイトもやめ、ヒモのように金をせびるようになって来た。

最初のうちはチェミンも黙って金を渡していたが、徐々に男にせびられる金額が多くなっていっていき、 金が無いと言うと暴力を振るうようになった。

それが半年ほど続き、暴力が日に日に酷くなって来る。それに耐えらなくなったチェミンは必要最低限の物だけを持って部屋を出て、たまたま空きのあったウチのマンションに引っ越してきた。

それから一ヶ月たった昨日、出版社からの帰り道、 拉致られ 部屋へ連れ込まれたが 隙を見て逃げ出した。
けれど、あの公園で捕まってしまった。

ということらしい。



「ひょくちぇには助けてもらってばっかりだ…」


「んなことねえよ…なあ?それ…」


「えっ?」


「消毒したほうがいい」



リュックから救急箱を取り出しチェミンに上着を脱ぐように言った


「い…いよ。ぼくはへーきだから…」


「平気じゃねえって 」



言いながらチェミンのシャツを脱がせた。

コレは…余りの凄惨さに言葉に詰まる。

なんて酷い事をしやがるっ あの野郎!
殺してやればよかったっ!



「ひょくちぇ…ホントにぼくは平気だよ」



平気なわけねえだろっ⁉︎

身体中 いたるところに抓られたらしい痕や、切り傷、 薄いからナイフの切っ先で なぶったのだろう。更に 細いミミズ腫れ これは鞭で打たれたのだろうと想像できた。



「少し眠りな…熱が出てきたみたいだから…」



もう目が閉じかけているチェミンに声をかけ ベッドに寝かせた。


傷を消毒してやり、薬を塗って毛布をかけてやる。


守ってやりたい…。



チェミンの寝顔を見つめた。

オレが
お前を守ってやるよ。


チェミン…。



















つづく