「兄貴もドンへの《アレ》見たことあるんですか?てか、ドンへはどう言う経緯で組に入って来たんですか?」



「んははっ…ったく、落ち着けよ。取り敢えず中入れ」



呆れたように笑われ オレは気づく


あ、



「すみません。お疲れ様です」



しかも 玄関だったわ…。




「何があった?」



ソファーに落ち着くと、兄貴に聞かれた。



「今日…集金に行った時に公園を通ったんです。その時…」



あの時のドンへの様子を細かく話した。



「そうか…」



オレの話を聞き終えた後、兄貴はそう言ったまま黙り込んでしまった。



「兄貴?」


「ああ… そうだな。どこから話そうか?」


「ドンへはどういう経緯で組に入ったのかを教えて下さい」


「んー…1ヶ月くらい前だったか?ドンへがお前の舎弟になったのは」


「はい…なったってか 兄貴がオレの舎弟にしたんですけどね。」.


「ははっ…そうだったな。まあ。あの少し前にボスに呼ばれてな。ドンへを紹介されたんだ。知り合いの倅だとか言ってたよ。そんでウチの事務所で面倒を見てやってくれって言われてな」


「ボスの知り合いの…息子?」



驚いた

ボスの知り合いの息子なのに 
下っ端扱いで大丈夫なのかよ?


それに、、、


何でヨンウン兄貴なんだろう?
兄貴の他に幹部は二人いる ヒチョルの叔父貴とジョンウンの叔父貴(兄貴の兄弟だからこの世界ではそう呼ぶ)
ボスがあの二人ではなく、ヨンウン兄貴に話を持って来た事も謎だった。



「知り合いつっても知り合いの知り合いって感じらしくてな。そんなに親しい訳じゃないみたいだった。取り敢えず食わしてやってくれって事だった」


「食わしてやれ、、、ですか」


「ああ。あの日、ドンへを連れて本部を出ると夜だった。事務所も閉まってる。仕方なく、その日はウチに泊まらせたんだ。ドンへは人懐っこくて、俺は
可愛い子分が出来たなあ~ なんて思ってた。俺のつまらねえ話にもきゃっきゃ笑ってくれてな」


うん。兄貴のギャグはマジつまんないすもんね?とは口が裂けても言えませんが。



「まあ…お前も知ってる何時ものドンへだよ。ドンへが眠ってしまってから、ウチのオヤジから電話が来たんだ。本当の父親の方な?で、暫く喋ってて 電話を切った時、ドアのところにドンヘが立っているのに気づいたんだ。『起こしちまったか?親父から電話だったんだ』そう言って謝ると、急にボロボロと涙を流し始めた。どうした?って聞くと しがみついて来て…」



『どんへ こあいゆめみた 』

ガキみたいな声と表情

『え?』

『おめめさめたらおとーさんいないから…』

『ドンへ?』

『おとーさん はやく ねんねしよ?』


冗談で言っている訳じゃないと思った。
初対面の俺にこんな冗談はあのドンへでもしない


『あ…ああ。』


めちゃくちゃ動揺した
驚いている俺に全く構わず、、、いや、俺が驚いているとか考えもしないんだ。
あいつにとって目の前にいる俺は”お父さん” なんだから


『ねえ えほん よんで 』


目の前にいるドンへは4.〜5歳の完璧な子供だった。


『ごめんな?絵本は無いんだよ』

『えぇ~?どうして? えほん~っえほん~っ』

『ごめんな?絵本は明日買ってきてあげるから、今日は…もうねんねしよ?』

『じゃあ だっこして』

『ああ。』





「ベッドに入って抱っこしてやると、安心したのか 直ぐに眠ってくれた」


「、、、、、」


「翌日になって 今日絵本買って来てやるからなって言うとキョトンとしてたよ。その後、試しに母親の話をしてみたんだ」


「どうでした?」


「全く異常はなかったよ。親父、父親、ってキーワードでああなっちまうみたいだった」


「ドンへの生い立ちとか分からないんですか?」


「ボスも知らないんだろうな。その知り合いの知り合い?なら知ってるかもしれないが、ボスに聞くのも…」


「何でドンへをオレの舎弟にしたんですか?俺より ソンミン兄みたいにシッカリした人の舎弟にした方が…」


「そうかもしれない…けどな?オレはね?お前が適任だと思った。それに…ドンへにはお前じゃなきゃダメだよ。」


「どうしてですか?」


「お前…ドンへのそんな姿を見て嫌になったか? 逃げたくなったか?」



驚いたけど、逃げたいとは思わなかった。
こいつが ”何か” を抱えているならオレは その ”何か” からドンへを守りたいって思った。

そう、素直に思ったことを口にすると 強面のヨンウン兄貴の顔に優しい笑が浮かんだ。



「ふふっ…お前ならそう言ってくれると思った。やっぱりお前が適任だよ」



そうかな?
ドンへのあの姿を見たら、ウチの事務所の連中は全員 こういう気持ちになると思うけどな。



「他に知ってる人間はいるんですか?」


「ソンミナとキュヒョナは気づいたみたいだな」


「あの姿を見たんですか?」


「いや、、、ドンへがああなっちまうとは知らないよ。ただ あの二人はドンへと話をしただけでアイツが何かを抱えているんじゃないかって気づいたらしい 『あいつ大丈夫なんですか?』って言ってきたよ。本当にウチの連中は…オレは良い舎弟を持ったよ」



誇らしそうな笑顔で言う。

それは あなたが兄貴だからですよ
ヨンウン兄貴だからオレたちは組に忠誠を誓えるんだ。



「ちょっと 調べてみたいんですけど…」


「ドンへの過去をか?」


「はい」


「調べてもドンへは治らないかもしれないぞ?」


「それでも…今のままじゃドンへはひとりで生きていくのが難しいですよ」


「そうだな…ボスに知り合いの知り合いってのがどういう人間なのか聞いてみるよ」


「お願いします」



頭を下げて ヨンウン兄貴の家を後にした。





あれから一月が経った。


兄貴の話によれば ボスはドンへを紹介した知り合いの知り合いってヤツの名前を言い渋っているらしい。


何でだ?

あれから今日まで何度かオレの前でドンへがガキになった。


その度に抱きしめて背中を撫でてやって優しいお父さんを演じた。


暫くそうしていると ドンへは一瞬気を失って目が覚めた時には元に戻っている


その繰り返しだった。


こうして父親のフリをする事がドンへにとって良い事なのか悪い事なのか、精神科医じゃないから分からないけれど、ヨンウン兄貴もオレもガキになっちまったドンへにしてやれることはそれくらいしかなかったんだ。



その日もオレは予定があってキュヒョナに応援を求めた。

口ではブーブー言ってもドンへの事が気になっている様子のキュヒョナは シブシブという風を装いながらも ドンへと夕食を共にしてくれていた。


予定を早めに切り上げると オレはキュヒョナに電話をして二人がいる店を聞いて 直ぐに駆けつけた。



「うおっ!ひょくだぁ~ 」


「来てやったぞ?」


「ご予定はおわったのか?」


「ああ。終わった 」



オレがイスにかけると直ぐにキュヒョナが立ち上がる



「んーじゃあ 俺は帰りますね。支払いよろしくお願いしまーす!先輩」


「はいはい。あ、キュヒョナありがとな」


「たまにはアホと話をしてみるのも楽しいですよ」


「きぃ~ アホじゃないのにい~っ」


「きぃきぃ言わないのっ!ほらキュヒョナにおやすみ言って」


「んー きゅひょな おやすみんみん」


「はい。おやすみ」



キュヒョナが店を出て行って 暫くしてオレ達も店を出た。




「ひぃふぅ~ お腹いっぱいざんす」


「そりゃ良かったな」


「ひょく? ココでバイバイかい?」


「送るよ」



一人でなんか帰せなくなった


ドンへが一人の時に 父と子の親子連れを見てしまったら?


誰が父親の役をやる?

誰が抱きしめてやる?

誰が涙を拭ってやる?

誰もいない 、、、。



抱きしめても貰えず 子どもの気持ちのまま一人の部屋に帰って 泣きながら布団に丸まるドンへの姿を想像するだけで


辛くなった。




「ひゃっほー!!んじゃあウチにお泊まりする?」


「パンツがねえよ」


「オレのお古でよければ…」



いや…それはカンベンして?

仕方ねえな。

コンビニでパンツを買おうか。


















つづく