一週間前のその日






「ドンへ 行くぞ」



事務所のソファーでグダグダとしていたドンへに声を掛けた。



「どこに?」


「集金だよ」


「お金返さない人が多いねぇ~」



集金先のその男は金が無い訳じゃなく、期限を過ぎても返さないヤツで、いつもオレたちが取り立てに行っていた。



「行けば直ぐに金を出すから金がないわけじゃ無いらしいんだよな。何で素直に期限まで払わねえのかわかんねえわ…」



二人でそいつの家に行く途中、 公園を通った。

今日はポカポカとした陽気だったからガキを連れた母親たちがたむろしていた

暫く歩いてからドンへの姿が無い事に気付きいた。


ったく…あいつはっ!


少し戻ってドンへを探していると
公園の方をじっと見ているドンへを見つけた。

ドンへが見ていたのは若い父親と4〜5歳くらいの男の子の親子連れだった。



平日の昼間で、父親とガキという組み合わせはこの親子だけだった。

ガキは父親の腕を掴み公園の売店で売っているソフトクリームが食べたいと駄々を捏ねている。そんなガキに父親はもうすぐお昼なのだからソフトクリームなんか食べたら昼ごはんが食べられなくなると言いながらも結局ガキのワガママを聞いてやってソフトクリームを買ってやることにしたらしい。二人で売店の方へ歩いて行った。

ドンへはその光景を惚けた様な顔でじっと見ている。



「おいっ!ドンへっ⁉︎ 早く取り立てに、、、」



ドンへがゆっくりとこちらを向く


焦点の定まらないドンへの目に一瞬恐怖を覚えた。



「ドン…ヘ…?」



オレを見ているけど 何も見えてはいない目だ。



「ドンへっ⁉︎ ドンへっ⁉︎ 」



肩を掴んで揺さぶったけれど

反応が無い

何なんだよ?これ、、、お前っ どうしちまったんだよっ?




「ドンへっ!!」


「、、、、おとーさん?」


「え?」


「あいすくりーむ、どんへ.、あいすくりーむたべたい」


「何言って、、、」


「かってかってかってかって!あいすくりーむ!かってようっおとーさん」


「わ、わかった…後で買ってあげるから」



震える声でそれだけ答え
祈る想いでドンへを力一杯抱きしめた。

頼むよドンヘ戻ってきて
お願いだからいつものドンヘに戻ってよ





「んー…?ひょく?」


「っ!ドンへ…お前、戻って来たんだな?」


「イミわかんないよう。そして苦しいよう」



よかった…もう 大丈夫だ
何時ものドンへだ。



「ほらっ 行くぞっ!集金におくれちまうよ」


「ほーいっ!」




さっきのは何だったんだ?
聞きたいけど聞けない

オレを『おとーさん』と呼ぶ
ガキみたいな声
ガキみたいな物言い

普段からガキみたいなヤツではあるけれど
さっきのドンヘはまるで本当に5歳くらいの子供に見えた。
あんなドンへは初めてだった。






「兄貴…ちょっと お話があるんですけど…」



集金から帰ってからオレは 兄貴であり ラッキー金融の社長でもある ヨンウンさんの耳にそう囁いた



「ドンへの事か?」



やっぱり 兄貴は知ってるんだ。



「はい」


「後で 一人でウチに来い」


「はい」



とは言ったものの…



「ひょくちぇさーんっ!帰ろうよう
オレはお腹へったぞ~ いっ!めしくわせろぉ~ 」



こいつを撒く自信がありませんっ



「お前さ?たまには舎弟仲間と飯でも行けば?交流を深めろ」


「しゃてーなかまとか 知らんっ!」


「いやいやいや…さっきまで きゃっきゃしてたろ?ソンミン兄の舎弟とか…」


「ソンミン兄好き~♪でもしゃてーのなまえは知らんっ 」



酷っ!名前も知らんヤツときゃっきゃしてたんかーいっ!



「ソンミン兄の舎弟じゃなくてもシウォナの舎弟とかキュヒョナの舎弟とかリョウギの舎弟とかさ?」


「だからっ!なまえ知らんのだってばっ」



だからっ!さっきお前その名前も知らんヤツらに頭ナデナデして貰って喜んでただろっての!しかもあいつら全員お前より年下だかんな?



「 とにかく 今日は …」


「ったく…ヒョクチェ兄は舎弟に甘々すぎますよ ケケっ」



出た!!後輩のくせに先輩を顎で使うで有名(オレの中では)なキュヒョンさん。



「甘くねえし!だから今こいつに今日は他の舎弟たちと一緒に帰れって言い聞かせてるとこだろ?」


「こんなアホな子に言って聞かせても分かりますかね?」


「きぃ~っ!きゅひょなの ばかぁ~ オレはアホじゃないわいっ!」


「アホじゃないならワガママだ」


「ちぃがぁ~うっ !オレはひょくとごはんが食べた、い、のっ 」


「だから それがワガママって言っ、て、る、のっ!」


「そなの?コレっち ワガママなの?」


「そうだよ。ヒョクチェ兄は今日、予定があるから ドンへに一人で帰れって言ってるのにヤダヤダってさ?呆れた舎弟だ」


「ひょくも?呆れーたーの?」


「いや、まだ呆れては無いみたいだからさ?ドンへ今日はキュヒョナ兄貴が食事を奢って上げよう。ね?ヒョク兄?それでいいよね?」



口が悪くて横柄で後輩の癖に先輩より先輩らしい態度が止まらないヤツだけど、こういうトコは本当に気が利く、、、



「後でお金は徴収しますよ」



気が利くヤツは、そこにも気が付くのね。



「ドンへ?キュヒョナとご飯だって、良かったな?」


「ん~… しょーがないなからきゅひょなにオレがごはん付き合ったゲル」


「あざーすっ!」



キュヒョナにドンへを預け、オレはヨンウンヒョンの家へと急いだ。

















つづく