連日の猛暑の中の久しぶりの雨、押田です。
あるお客さん宅の裏庭。
93歳のおばあちゃんの夢を叶えるための工事の記録です。
なんの変哲もないため池。
元々、このあたりは常に水っぽい土地だったようで、雨が降るといつまでも水が抜けない、なかなか乾かない土地だったようです。
このお宅の前庭は8年前に植栽工事をやらせていただき、それからのお付き合いです。
1年以上前に、このお宅で「もしかしたら水が溜まるかも知れない、試しに穴を掘ってみよう、」
ということになったそうです。
重機で穴を掘ってみたところ(私ではありませんが)、水が湧きだし、溜まりました。
梅雨時期は水かさが増え、夏場や冬場は水位が減ったりしましたが、1年を通して、水がなくなることはなかったそうです。
すぐ上はお寺があります。
元々は保育園があったらしいのですが、それが移転し、何もなくなりました。
そのときはもっと樹木があったらしいのですが、今はとても殺風景です。
この地域は水脈に恵まれ、以前は幾本か小川や沼があったそうです。
しかし小川が埋め立てられ、周りはコンクリートで囲われ、付近の道路や建物の地盤が上がり、水の逃げ場所がなくなりました。
現代では、「よくあること」なのですが、水の流れを無視した現代土木。
すぐ横にコンクリートの側溝があり、チョロチョロと水が流れている状態です。
結局、水がはけきらないから常に水が溜まってしまう訳です。
このお宅には、93歳のおばあちゃんがいます。
「ここに蓮の花を咲かせたい」
「ここのお寺に来た人にも、きれいな景色を見せてあげたい」
長く放置されていたこの土地に蓮の花を咲かせることが、
おばあちゃんの長年の夢だったということを聞きました。
「何とかおばあちゃんの夢を叶えたい!」
このお話を聞いたのが、昨年の暮れだったでしょうか。
5月になり、工事を始めました。
池の形が長方形では不自然なので、思いつくままに重機で造成をしてみました。
なんとなく池の形が出来ました。
次は水脈の整備です。水の出入りを何とかしなければいけません。これがとても大事なことです。
僕の推測では、奥の山から湧き出た水が、地下水を通じてこちらで湧き出し、その後利根川に向かって流れていくように思いました(間違っていたらすいません)。
この池の奥の畑も常に土が湿り、水が溜まるような畑ということです。
地形的にも高い方から、水の逃げ場を作るため、奥からこの池に向かって水脈をつくります。
池の奥からの写真。重機で溝を掘りました。下は粘土の層でした。
透水管を入れ、竹炭、木の枝、コンクリガラなどを混ぜます。
大地の再生講座の矢野智徳式のやり方です。
埋め戻した状態。
次は手前の水脈整備。
この池の水を次にどこかに逃がさなければいけません。
手前に新しいコンクリートの側溝があるのですが、設置した高さが高すぎて、全然機能していません。
水を足したりしながら、数日間水位の様子を見てみました。
そして、この側溝より池の水位の方が低いことが判明しました。まるで機能していない側溝です。
この側溝は、大雨の時、極端に水位が上がった時の予備のものとして考えることにしました。
写真の左側にもう一本の側溝がありました。既存の側溝です。草で隠れてよく見えませんが・・・。
こちらは高さも右の側溝よりも低く、お寺の方からの集落の水が流れています。
こちらは機能しています。
この水脈整備、何が正解なのか、本当に難しい。
本当はコンクリートの側溝に頼りたくないが、素掘りのものも限界がある・・。
とても悩みましたが、機能していない新しい右の側溝の下に透水管を通して、左の側溝に水脈を繋げることにしました。
手前に再び溝を掘ります。
左の側溝に2本の水脈を繋げながら、手前にも新たな水脈をつくり、水脈をいくつかに分散することにします。
素掘りの溝の途中に深い穴をいくつか掘り、水の逃げ道をさらに分散させます。
機能している方の側溝に2本、透水管を通しました。
同じように、木の枝、竹炭、コンクリガラなどを混ぜながら、埋め戻していきます。
一般的に土木工事では、塩ビの穴あきパイプを使いますが、すぐに詰まってしまいます。
矢野智徳さんのやり方は、有機物と無機物をバランスよく混ぜ、永続的な水脈をつくる方法です。
この水脈工事を始める前日、
家の片隅にある、残材を発見しました。
玉石や三波石、コンクリガラ、間知ブロック、残土、雑草やら・・・。
見る人が見れば、ただのゴミですが、
これも利用してみよう!ということなりました。
お客さんも、ここが片付けば、車が停められる!
「そこにあるものを使う」
矢野さんもよく言われますが、造園工事とはいかにあるものを使うか、
僕自身もそんな考えが浸透してきたように思います。
コンクリートガラは細かく砕いて、先程の水脈で使いました。
水脈の整備が終わり、再び造成、池の形も、ひょうたんっぽい形に。
再び池に水を足してみたりしながら、数日様子を見ました。
以前は停滞していた池の水でしたが、少しずつですが水が動き始めたことを確認!
次は植栽です。
ヤマボウシ、コナラ、トネリコ・・・。
雑木類を植え込みます。
この土地は水はけが悪いことを忘れてはいけません。
木々を植えながら、竹筒を植木の根鉢の下深くまで差し込み、空気と水の流れを良好にしていきます。
植栽作業の途中、注文していた「蓮」が届いたとの連絡がありました。
急いで取りに行き、今度は念願の蓮を植えます。
いくつかの種類を混ぜ、10数株蓮を植え込みました。
この池、下の土は柔らかく、田んぼのような状態。いわゆる荒木田でしょうか。
深さは50~60cmくらい、ズブズブと足が沈んでいく感じです。
「おお、蓮が植えられましたね!」
悲願の蓮が植えられ、おばあちゃんもとても喜んでいました。
しかし、本当に咲いてくれるのか?しっかりと活着するのか?祈るような思いです。
残材の中にあった、間知ブロック。
これは池の護岸に使用しました。
この頃になると、カエル、アメンボなど、不思議と生き物が住み始めました。
これならと、直売所でメダカを購入して池の中に。
まさにビオトープですね。
今回の工事は、とにかく蓮を植えて咲かせること、そして全体的に景色が良くなるように、池の周囲の雰囲気を出すこと。
細かいところは、ほぼノープランでしたが、生き物が住み着き、何となく形が見えた気がしました。
間知ブロックの次は、玉石です。出してみるとけっこうな量がありました。
こちらも池の土留めに使用してみます。
土留だけでは、余ってしまうことが判明。
玉石の延べ段風に、上を歩けるようにしました。
三波石の平板も延べ段として使い、土留めの作業も終了。
植栽の仕上げ、といきたいところでしたが、ここでまた一つ課題が。
この時期、雨がよく降っていましたが、数日感晴れが続くと、水が蒸発するため、水位が下がります。
池の横に井戸を掘っていたので、お客さんがそこからホースで水を足していました。
本当だったら、池の上流付近から水を足したいよね・・・。
だったら、なんか竹を使って流れてくるような、流しそうめん的な・・・。
お客さんとの雑談からアイデアが出て、形になることがよくあります。
そこで、井戸水を引き、植栽の築山部分から水が湧いている感じにすることに。
植栽で余った、竹筒を二つに割って、池に水が落ちる仕組みにしました。
おお、水が出た!
いい感じです。
ここの奥さんが山形出身だということで、築山付近に鳥海石を数石置きました。
鳥海山のふもと付近から湧き出る水が埼玉の里の池に流れ出る、みたいなイメージ。
遠く山形と埼玉が繋がった瞬間でした。
水が落ちることで、池に酸素が入ります。
メダカたちも喜んでいることでしょう。
この後、メダカの好きなホテイソウも投入。
この数週間後には、メダカはたくさんの卵を産み、メダカの子供がたくさん生まれていました。
きっとメダカたちにも良い環境が整ってきたと思います。
さあ、この池の完成も近くなってきました!
水辺が好きな花菖蒲やカキツバタを植え、植栽地の表土に落ち葉を敷きます。
たまに降る雨が玉石をきれいにしてくれました。
池の中にも大きな石を沈め、飛び石にしようとしましたが、この付近で水が湧いていることがわかり、辞めました。環境第一です。
最後に余った石材は、側溝の横に積み上げました。ここから水が抜けていきます。
残材もすべて使い切りました!
ということで、工事はほぼ終了です。この時6月10日。
あとは、しっかりと蓮が咲いてくれるかどうか!経過を見守ります。
6月18日。池の様子を見に行きました。うっすらと草が生えてきました。
蓮の葉も少し増えましたが、花はまだのようです。本当に咲いてくれるのか?
早く花芽が出てきてほしいです。
6月27日。
梅雨も真っ只中、久しぶりに池の様子を見に行きました。
蓮の葉もかなり増えて、まさに蓮池です。
草も伸び始め、より自然な雰囲気になりました。
おぉ!!
花芽があるではありませんか!
花芽の第一号でした。やりました、うれしかったです。
6月30日。そろそろ咲いたか?再び花の様子を見に行きます。
この頃一気にハスの葉が増えてきました。
一面が蓮、蓮、蓮。しかし、まだ咲いていませんでした。
7月1日、夕方。
そろそろ咲くだろう。それとも咲いたのか?
花が開いたところが見たくて、仕事の合間を見つけ、現場に向かいました。
しかし、なかなか見れない。
この頃、あちこちにつぼみが出始めていました。
7月3日、「蓮が咲いてるよ!」
お客さんから連絡が入り、午後3時過ぎ、見に行きました。
でも閉じていました~
蓮は朝に咲く、といいますが、午後や夕方になると花を閉じてしまいます。
やはり午後はダメですね。
しかも、花ガラが下に落ちていました。もうこうなると、花も終わりに近いようです。
見れなかった~。
この後、現場の仕事が忙しくなり、なかなか池には行けませんでした。
多少の雨でも現場仕事はできるため、相当な雨でないと休みにはなりません。
そして・・・
本日7月16日、ようやく見れた蓮の花!
台風の影響か大雨で現場の仕事が中止になりました。
透き通るような花の色。
あらゆる植物の中でもこの花の美しさは、次元が違うように思います。
花もあちこちに見られるようになりました。
周りの草も伸びてきました。
以前からあるような、そんな蓮池が完成しました。
ほんの2ヶ月あまり、これだけ自然が再生できるのですね!
自分自身でも驚きです。
今回の雨は、梅雨明け前の最後の雨でしょうか。
ようやく見れた蓮の花に感慨無量です。
ここのおばあちゃんの喜ぶ顔が見に浮かびます。
工事終盤の時に、おばあちゃんが言った言葉が忘れられません。
「蓮が見たい、蓮が見たい、とずっと思っていたんです。」
「そしたら、こんな立派な蓮の池ができました。ずっと思っていれば、願いが叶うものなんですね~」
工事も終了間近、とても嬉しい瞬間でした。
「若い時は苦労もしましたが、私は今が一番幸せです。」
93歳のおばあちゃんの言葉でした。末永くお元気で・・・。