今シーズン、攻撃の軸として活躍が期待されていた男の姿が開幕戦のピッチに無かった。その男の名は名古屋グランパスユース出身の櫻井昴。昨年の12月の練習中、元々違和感のあった右膝が悲鳴を上げた。復帰に向けた数々の試練を乗り越えていく中で、多くの人に支えられていることを実感する。
そしてその感謝をピッチで示す時が来た。
昨年12月の練習でのことだった。
「疲労が積み重なって右膝に違和感のある状態でやってたんですけど、アウトサイドで振り抜いた時に膝が抜けた感じになっちゃって。」
次の日も練習するが、走ることが出来ないほどの痛みだったので途中で切り上げ、東京都内の病院に行くことに。
そこで半月板が切れていると言われ、手術を勧められた。
しかし、その診断結果を受け入れることが出来ず、地元名古屋市内の病院でも診てもらったが、結果は右膝半月板損傷。
サッカーを続けるには手術は免れない状況となった。
「2週間くらい何も考えられなかった。」と本人も話すように、辛い現実を突き付けられた。
「手術後が1番辛かった。」
1月10日に手術を終え、辛いリハビリ期間がスタートした。何も出来ない入院生活や先の長いリハビリ生活にうんざりすることもあった。
しかし、「焦らずに今出来ることにベストを尽くせば、結果は付いてくると信じていた。」
その信念をぶらすことなく、復帰に向け、モチベーション高く取り組むことが出来た。
また、親は「しっかり治してからやれば大丈夫だよ。」「サッカー以外のことで貢献出来るんじゃない?」と意外にも楽観的で驚いたと話す。
それは櫻井を不安にさせない為、1番の理解者である親の優しさだったのかもしれない。
チームメイトにも感謝している。
名古屋でのリハビリ期間中、チームメイトから動画が送られて来た。
そこにはチームメイト達からの励ましの言葉や辛いことを忘れさせるようなお笑い要素も入っていた。
「とても驚いたし、素直に嬉しかった。」
それは間違いなく心の支えとなっていた。
動画には親からのメッセージもあり、「自分のことを想ってくれているんだなと感じた。」
また、「東京に戻って来て、自分がなかなか気持ちが上がらない時でも、寮とかでみんなが自然な感じで自分に絡んで来てくれたり、そういう逆に気を遣わずにいてくれる感じがすごいありがたかった。」とチームメイトへの感謝は尽きないようだ。
そして7月12日に待望の復帰を果たす。
「今はまだ頭の中でのイメージに体がついてこなくて、7ヶ月のブランクを実感しているが、ピッチに立つと色んなものが見えて楽しいので、その感覚を大事にしながらトレーニングしていきたい。」と充実した様子で話す。また、「今年のチームはボールを回して主導権を握れているが、怖さが無い。」と分析し、「自分が入って、ゴールに向かうプレーを出していければ。」と、来たるその時に向け、イメージは膨らませている。
「チームメイトや親とか支えてくれた人達、応援してくれる人達の為にピッチで活躍する姿を見せたい。」と話すように、周りへの感謝をピッチで示したいという強い想いが言葉の節々に感じられる。
そして何より、長期離脱している中大のエースの存在が大きかったと話す。
櫻井より後に全日本大学選抜の遠征中に大怪我をした矢島輝一だ。
矢島が怪我をしたと聞いた後すぐに連絡した。
「輝一くん、まじっすか。」
そこから頻繁に連絡を取り合っていく中で、「自分より大きな怪我なのにポジティブに振る舞っている輝一くんを見ると、俺もやらなきゃなってなる。」と刺激を受けていた。
「先に復帰して、点取る姿を見せつけて輝一くんに刺激を与えたい。」と刺激を与えてもらった分、返したい気持ちがあるようだ。
櫻井には「プロになる。」という揺るがない夢がある。
その夢に向け、立ち止まっている時間はない。
「サッカーはこの後いくらでも取り戻せるが、怪我をしたことで経験できるものもあったし、考えも少し変わった。大人になったと自分では思ってる。この経験もサッカーをする上で活かしていきたい。」と成長の糧として前向きに捉えている。
『誰より強く櫻井昴 熱いゴールを叩き込め』
「嬉しい時もどんなに苦しい時もこのチャントを歌ってくれていたので、色んな想いが詰まっている。」と、名古屋グランパスユース時代にサポーターに作ってもらい、大学でも引き継がれているこの個人チャントのように、誰よりも強く、熱いゴールを叩き込む姿を観れる日はそう遠くはないだろう。
親、チームメイトなど多くの人に支えられながら大きな試練を乗り越え、ひと回り大きくなって帰って来た。
その感謝を胸に、飛躍を誓った櫻井昴の今後の活躍に目が離せない。
◎プロフィール◎
櫻井昴 (さくらい すばる)
MF 3年 法学部
1996年6月20日生まれ
175cm/70kg
名古屋グランパスU-12→名古屋グランパスU-15→名古屋グランパスU-18