『プロジェクト・ヘイル・メアリー』を読む | 果実相兼

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パラレルワールドにいるもう一人の私へ

こんにちは、六花です。

今日はいきなり本文に入ります。

六花はまたSF小説を読んでいました。

めちゃくちゃ面白い。

色々なことを感じるけれど、とにかく物語の世界に浸って一緒に旅をしてほしい一冊。

 

『プロジェクト・ヘイル・メアリー』

アンディ・ウィアー著

小野田和子訳

 

主人公は、突然―本人にとっては突然―ベッドの上で目を覚ます。

目は覚ましたけれど、体は動かない。何ということだ。目も開けられない。声も出ない。

なんだ、これは?

なんだ、ここは?

なんで、こんなところにいるんだ?

それよりも、僕は誰だ?

なんで覚えていないんだ?

どうなっているんだ?

 

主人公の混乱から始まる物語。

そして、彼をお世話する冷静なロボット。

混乱しているのにどこかユーモラスでポジティブな主人公と冷静なロボットのコントラスト。

でも、部屋にいる生命体は彼のみ。同室の二人はすでに死んでいて、ミイラになっている。

 

なぜ、なぜ、なんで?

混乱と疑問から始まる物語。

 

ね、面白そうでしょう?

SFだけど、ある意味ではミステリーなの。ネタバレ注意の。とびっきりの王冠2

面白かった!

主人公が一時的に記憶を失っているので徐々に過去を思い出していくパートと、現在の宇宙空間にいるパートが組み合わさった物語なの。

読んでいるこちらも、主人公と一緒に世界を理解していけるのがいい。複雑な世界観を理解しやすくなる働きがあるし、何よりもちょっとずつ分かるのがスリリング。わくわくする。読むのが楽しい。

 

内容にちょっと触れちゃうと―(本を読む予定の人はネタバレ注意)

 

主人公はライランド・グレースという中学校の理科の先生の男性。科学者だったけれど色々あって辞めて学校で教えている彼が、なぜか記憶を失って宇宙船で目覚めるところから物語は始まる。

彼の授業の様子が過去の記憶として出てくるんだけど、授業がとてもエキサイティング!

子どもの興味を引く授業がとても面白そう。

彼が先生だということが、もうとびっきりの前振りなの。

私今回は前情報を入れないで読んだから、余韻がある終わり方に胸が弾んだよ。もう、こんなの泣くし泣

 

大雑把に前提まとめると

ある時太陽の光が減っていることが発見されたの。

太陽が死にかけているということが発見されたの。

原因を探ると太陽の光を食べてしまう地球外生命体アストロファージだということが分かる。

(グレースが地球外生命体にアストロファージとなずける場面で、バクテリオファージのあの形を思い出してクスッと笑ったのは私だけではないと思いたい。授業であの形を書いた人はたくさんいると信じたい。私は下手すぎて同級生に爆笑された。)

このままでは地球は次第に氷河期になり食糧難が発生し、人間は滅びてしまう―

そんな地球と地球の生物を救うためのプロジェクトが「プロジェクト・ヘイル・メアリー」というもので、グレースはそのために宇宙空間に送り出された宇宙飛行士で科学者だったの。

つまり、アストロファージ感染していない星―タウ・セチに向かって飛んでいる宇宙船の中で、彼は目が覚めたの。

 

さあ、どうする?

前提が分かったら、どうする?

もう、やるしかないでしょう!

 

 

ね、面白そうでしょう?

『三体』からSFブームな私ですが、どちらかというとこちらの方が読みやすいから、どちらにも興味があるのならこちらから読むのをオススメ。読みやすいし、分かりやすいし、友好的で、ポジティブだから。

『三体』は文化大革命がある意味で契機だから中国の歴史を知っていた方が分かりやすい部分もあるし―私はその辺ちょっと復習した―、物理的なこととか、色々な原理や仕組みの説明が多いから。そして、三体の世界では地球外生命体が地球人に友好的ではないから。

こちらは、グレースが出会うロッキーがとっても“いいやつ”だし。

ロッキーというのは、エリダヌス座40番から来たブリッツAに乗っていた異星人のこと。

 

宇宙空間でグレースが孤独に奮闘する物語かと思ったら、こんな風にロッキーという異星人との出会いがあり、二人はバディになり、アストロファージをやっつける方法を研究していくの。

友情と冒険と勇気って、少年漫画みたいだよね笑

 

 

物語はグレースの物語で、彼が旅立った後、地球がどうなったかは出てこない。

地球に残された人間たちは、段々に寒くなる地球、余力がなくなっていく地球でどうやって彼からの吉報を待っているのか―

 

その一端を終盤のストラットの言葉で感じ取ることができる。

彼女は、プロジェクト・ヘイル・メアリーの責任者なの。

彼女は大学では歴史を専攻し、人間の歴史が長い間食料の安定供給を求めて発展してきたとグレースに語り掛けるの。

飢饉が訪れ、きっと人々は争い出すと。やすやすと大国が自国民が飢えて死んでいくのを手をこまねいてみているわけがないと。自分はそれを止めるためなら、人類が生き残る可能性を上げるためなら、何でもすると。

 

産業革命が起こるまでの五万年間、人類の文明はあるひとつのもの、そのひとつだけにかかわるものだった―食料よ。過去に存在したどんな文化も、もてる最大の時間、エネルギー、人力、そして資源を食料につぎこんだ、狩猟、採集、農業、牧畜、貯蔵…すべて食料にかんすることだった。

ローマ帝国ですら例外ではないわ。皇帝のことやローマ軍のこと、各地を征服したことはみんな知っている。でもローマ人がほんとうに発明したのは、農地と食料や水の輸送手段を確保する非常に効率的なシステムだったのよ。

産業革命は農業を機械化した。そしてそれ以来、わたしたちはほかのことにエネルギーを注げるようになった。でもそれは過去二百年間のことよ。それ以前は、ほとんどの人が人生の大半をみずからの手で食料をつくる作業に費やしていた。

 

中略

 

栄養不良。混乱。飢饉。社会的インフラのすべてが食料生産と戦争につぎこまれる。社会の基本構造がばらばらに分解されてしまう。疫病も流行するでしょう。さまざまな疫病が。世界中で。医療システムが追い付かないからよ。これまで簡単に押さえこめてきたものが抑制できなくなってしまう

戦争、飢饉、疫病、そして死。アストロファージはまさに黙示録よ。いまのわたしたちにあるのは<ヘイル・メアリー>だけ。どんなに小さかろうと、成功率を高める要素があるのなら、わたしはどんな犠牲でも払う。

 

ストラットの矜持。

行きたくない・死にたくないというグレースを冷徹に送り出すにあたって、彼女が彼に語った言葉。

なぜ、こんなことをするのかという彼女の行動原理。

グレースがなぜこの役割を担っているのかを、最後の最後に思い出させるのってもの凄い構成だと思う。残酷で美しい計算だと思う。作者、天才。

地獄に落ちろというグレースに彼女は言う。

 

ええ、落ちますとも、かならず。そしてあなたたち三人はタウ・セチにいく。残るわたしたちは地獄行き。もっと正確にいうと、地獄がむこうからやってくるのよ。

 

向こうからやってくる地獄に対して、残された人は何ができたんだろう。

私はきっと残る側だから、少しそれを考えた。

地球が段々寒くなって、食べ物が取れなくなって、きっと人々はぎすぎすしだす。小さいのから大きいのまで争いが絶えないだろう。

貧しい人と富める人の格差はもっと広がる。

日本なんて農業従事者が減っているし食料自給率も低下しているから、もう飢えること必須だろうな。

食料の輸入もきっともうできない。他国に売っている場合じゃないし。もしかしたら、日本国内の農家ももう米を市場には出さないかもしれない。自分たちが食べる分として出さないかもしれない。

日本の人口の半分以上が死んでしまうんじゃないかな。食べ物の前には、金融商品も工業製品も意味ないし。

うん、これ、確実に私、死ぬね。

たんたんと行けるところまで生きていて、いよいよという時には、一抜けた!って死んじゃうね。

安楽死法案、できているといいけど。

 

 

今日はちょっと小説に影響されてブログの書き方を変えてみました。

とっても面白かったよ。