次も面白いと聞いたので読んでみた本です。
『残像に口紅を』筒井康隆著
段々に世界から言葉が消えていく物語
「あ」が使えなくなると、「愛」も「あなた」も使えなくなる
減っていくの
言えなくなるのよ
「こんにちは」も「おはよう」も「いらっしゃいませ」も「ねぇ、あなたも」
「好き」も「嫌いも」、「美味しい」も。
妻の名も娘の名も文学賞の名も消えてしまう
書いた原稿も出版社の担当者も消えてしまう
メニューも数字も消えてしまう
初めにこのルールが提示された時、そんなので物語は成り立つの??と思ったんだけど、これが筒井さんにかかると結構成り立つの。
そりゃあ、固有名詞が消えて直截的な表現ができなくなって回りくどくはなるけれど、成立してしまうの。
私は元々の筒井康隆先生の文体を知らないからかもしれないけれど、こういう文章書く昔の作家っていそうだようなぁと思いながら特に違和感なく最初は読んでいた。男女の情事の描写もあるんだけど、むしろ、エロティック。何というか、新鮮。メタファーが。
凄いよ、筒井さん。
作家の底力に驚嘆した。
読む私はいいけれど、書く方はとても大変だろうと思うもの。
最後に卒業論文でこの小説を論じているのが載っていて、それがちょっと斬新でますます面白かった。
読みながら私はこのほんの少し前に読んだ小説に出てきた“一文字しか字を知らない象が手紙を書く場面”を思い出していたの。
その象は「く」を使うの。
ねぇ、あなたなら最後はどの文字に残ってほしい?
私なら、やっぱり「あ」かなぁ
ねぇって呼びかけたいから、「ね」かなぁ
ちょっと考えてみてね