刹那-the Everyday Messiah- -3ページ目

刹那-the Everyday Messiah-

紡がれた言葉が、刹那でも皆様の心に残れば……

生まれる前に植えられた桜の木

私と共にすくすくと育っていった


愛する人に想いを伝えた日

いつもより花弁は鮮やかで


ひらりひらり

舞い散る花弁

風と共に届けてよ

私の変わらない想い

「あなたを待ち続ける」

二度とは叶わぬと知っても…


季節を数え過ぎた日々を悟り

また会えるよと 手の温もり甦る


縁側に座り桜を眺めてる

幸せな日々と今が重なりだす


ひらりひらり

舞い散る花弁

風と共に届けてよ

私の変わらない想い

「あなたを待ち続ける」

二度とは叶わぬと知っても…


赤い通知書 あなたは旅立った

最期に過ごしたのも桜の下


風と共に月日は流れて

私もまた歳を取って

今日もまた縁側に座り

桜を眺めてる


ひらりひらり

舞い散る花弁

風と共に届けてよ

私の変わらない想い

「あなたを待ち続ける」

二度とは叶わぬと知っても…


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大変お久しぶりです、蘇芳です

最近はストリエというサイトでの投稿が多くなり、あまりこちらで作品を書くことが減ってしまいましたが、一応生きてはいます。


今回は、サクラノ下での悲恋をテーマに書きましたが、何分これを書き終える頃には桜が散ってしまったので、来年まで持ち越そうかと思っていた作品です。


また機会があれば、こちらでも作品を上げていますので、遠い目で待っていただければ嬉しいです

名前を知らない程に増殖していた 君と過ごした春は終わって

いつまでも一緒だと夢に見てた あの頃の笑い声が今も木霊する


独りぼっちだった僕達が惹かれあうのはもう

ある意味必然なのかもと思ってた

戸惑うこともあったけど 何より充実してた

夢さえいらないとそう思うほどに


ただ一途に愛することが楽しかった

気づけば愛する意味をはき違えてた


思い浮かぶまばゆい笑顔

何度も救われてたのに曇らせたのは他でもない僕で


明日になれば会えるなんてもうない

繋いでいた手はずっと 帰りを待っていた


誰にも届かない「会いたい」が口からこぼれては空に消える

独りきりで佇む僕の横にいたはずの影を風がさらってく


「大好きだ」

「愛してる」

……もう救えない


傷つけていることに気づけなかった

温もりに手を伸ばして首を絞めてたんだ


「大切なものは失って気づく」その通りなんだと今知ったんだ

二人手を繋いで歩いた道も今は一人分の足跡だけ


名前も知らない程に増殖してた 君と過ごした春は終わって

いつまでも一緒だと夢に見てた あの頃の笑い声が今も木霊する


鮮やかな日々をくれた愛しい人よ

僕は誰も愛さずに思い出すのでしょう……


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「んぁ……」


目が覚めた。

どうやら、ソファの上で眠っていたらしい。

体を起こしたのと同時に、いつの間にかかけられていた毛布がずり落ちる。

「おはよう、蛍ちゃん」

声をかけてきたのは、家で家事をやってくれている土師さんだ。

「栗きんとんできたよ。味見するかい?」

「うんっ」

大好きな栗の2文字に反応して元気な声がでた。

眠気が一気に吹き飛んでしまった。

同時に、私は思い出した。

料理が苦手なお母さんの代わりに、私と土師さんでおせち料理を作ることになったのだ。

田作りは私が作り、ぶりは土師さんが。

大好きな栗きんとんは2人で作ろうと言っていたのだが、土師さんの手が空くのを待っている間に眠ってしまったらしい。

おかげで、起きた時には全部終わっていた。


「ごめんなさい、作るの手伝うはずだったのに」

謝りながらも、私は黄金色の栗きんとんをつまむ。

うん、甘すぎなくて絶妙な味加減。

やっぱり、土師さんって料理うまいなぁ。

「気にしないで。蛍ちゃんだって受験で疲れてるだろうし」

そういう土師さんは棚から重箱を取り出す。

「まぁ、ちょっとね。でも、おせち作ってると気分転換になるんだもん」

「はは、そうか。じゃあ、伊達巻切ってくれるかな?」

「うん」

エプロンを着けてさっそく伊達巻を冷蔵庫から取り出す。

「うぅ、やっぱり寒いわ」

そう言って、お母さんがケディと一緒に部屋に入ってくる。

「蛍、今年はお父さん帰ってこれるって」

「本当⁉」

東京で働いているお父さんが数年ぶりに正月に帰ってくる。

すごくうれしい。

「あら、もうほとんど料理できてるんだ。じゃあ詰めるのは私がやるよ」

「大丈夫ですか、梓さん」

「そこまで不器用じゃないよ。これでも料亭でバイトしてたんだから」


数分後、淡雪が舞い落ちる初浦市に、除夜の鐘が響いた。

゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ ゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚


こんばんは

今年の書き納は、久しぶりの泡沫雪月花でした!


蛍や土師さんを動かすのが久々すぎてちょっと手間取りましたが、なんとかかけました。


最近はストリエというものまで始めて、あまりこちらに顔を出していませんが、まだ未完のシリーズもあるので、来年も引き続きAmebaでお世話になります


来年も、よろしくお願いします。


銀城蘇芳

優しかった 私のお父さん

笑いあった 懐かしい


古いアルバムめくれば 確かにあったの

幸せそうな 子供の頃が


ねぇ

私はあの頃に戻りたいの?

違うよね?

一緒に過ごした日々 大切だから


溢れる闇に 光が射す

凍るような痛みさえ

溶けて消えていくはずと
その不器用な優しさに

いつも救われていることに

今 改めて気づいたの


ねぇ

私はあなたに憧れてたの

遠かったあなたと

一緒に戦いたかったの


こぼれた涙 温かくて

辛いとき 独りじゃないと

教えてくれたあなた


もう哀しい鎖を外そう

みんなが力をくれたよ

過去にも向き合えると……


゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ ゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚


お久しぶりです、蘇芳です(^∇^)

久しぶりの詞の更新です


今回は、いつも仲良くさせていただいているみんとすさんの誕生日記念ということで、みんとすさん作の小説「暗黒と少年」のキャラ・ソム・ネロをテーマに書かせていただきました♪


今の妖息編がソムさん中心ということもあるのですが、彼女とガネさんがセットの話が好きなのもあって、どこか告白めいた詞になりました(^_^;)

ちなみに、裏テーマは「DBのED」です(・∀・)

もしDBが映像化されて、ED曲作るんだったら、こんな優しい詞がいいなと思い、書いていきました。


既に、「暗黒と少年」のキャラクターをテーマにした詞は何回も書いてきましたが、今までで一番温かい詞になったんじゃないかと


では

みんとすさん、誕生日おめでとうございます!


追伸・1日遅くなってすみませんm(_ _ )m

「あ、時間だ」

僕はすかさず、色を変更する。

真向いの仲間も、同じように変色したのが見えた。

途端に、下にいる人間たちがぞろぞろと歩き出す。

……ふぅ、今回もちゃんとできた。

「なに息なんてついてるんだよっ」

と、僕の右隣の仲間が笑った。

「てかお前、口なんてないのによく息なんかつけるよな。怖っ」

「うるさいなぁ。そういう自虐ネタ止めろよな。自分だって一緒なくせに」

すぐに反抗すると、仲間はただ高らかに笑うだけだった。

……そうやって僕らが笑うこと自体、下にいる人間からすれば恐怖でしかないんだろうけどな。

そう、僕は思った。


僕らは信号機だ。

おっと、なんで信号機が喋ってるの⁉なんてナンセンスな質問はご遠慮いただこう。

人間よ、こう見えて機械もナイーブなのだぞ。

僕らは基本4体一組になって人間の作った道路(交差点)に配置されるんだ。

中には2体一組だったりっていう組もあるみたいだけど、僕はそっちに配置されなくてよかったって思う。

だって、ずっと向き合いながらというか見つめあいながら仕事するの……恥ずかしくない?

あ、でも何体かは成績が良くて大きな道路に配属された上に矢印ライトまでつけてもらったんだって。

いいなーそれ。信号機の世界ではエリートの証なんだよっ。

あ、僕?あはは~、普通の信号機だよ。

平均的過ぎて、普通にどこかの交差点に配置された、ただのしがない信号機。

でも、僕の組のみんな優しいから、仕事もすごく楽しいんだ。

さて、今日もがんばるぞ!


「ここの仕事って超たるいよなー」

そんなことを言い出したのは、例の右の仲間だ。

正直、彼が一番口数が多い。

「何を今更なことで文句言ってるの」

そう言うのは僕の真向いの仲間。どうやら、彼というより彼女らしい。

「ここの配置が嫌だったら、もっと別のところに希望出せばいいのに」

「出しても通るわけないだろ。所詮俺たちを配置するの、人間なんだし」

右の仲間が文句を言った。実際には口はないのに、なぜか口を尖らせているように見える。

それが、なんだかおかしかった。

「だいたい、俺たちの仕事だって人間たちの生活のためだけだろ?俺たちがする必要ないじゃん」

「はいはい、今更なことを愚痴らなくていいからね」

右の愚痴を向かいの仲間が綺麗にシャットアウト。仲いいよなぁ。

なんか、ダメな弟とデキる姉みたいな。

「ほら、時間だよっ」

「え?あっうん」

向かいの仲間に促されて、急いで色を変えた。

ふぅ、僕も大概だなぁ。

いやしかし、右側に笑われるのは癪だな。さっきまで同じように怒られてたくせに。

僕はすねたように顔をそらすのだった。


それは、突然起きた。

いつものように、僕らが仕事をしていた時のことだ。

「あれ?」

僕は小さな違和感を覚えた。

今は僕と向かいの仲間が赤く変色している。つまり、右と左の仲間の下を人間や車が走って行っている。

いつもの光景なのに、何かが違って見える。

下を見回して、ようやく気が付いた。

右側の下、つまり僕の右下に、異様に車道を窺っている人間が見えた。周りに他の人間がいないせいで、その人間の行動が目立ってしまっている。

「どした?」

右の仲間が聞いてきた。そろそろ変色の時間かな。

でも、どうしても下の人間が気になってしまう。

「いや、あそこの人間が――」

それは一瞬のできごとだった。

人間が突然、脇目も振らずに走り出した。まだ青い右側の真下を。

しかし、左の仲間の真下を、猛スピードで車が通り抜ける。そのままの勢いのまま人間に向かって突っ込んでいった。

右側の仲間にぶつかるくらい跳ね上がる体。僕も、右側も、向かいの仲間も固まった。

そのままスローモーションのように落ちていく。なじみ深い交差点に、赤い斑点が浮かぶ。

凍り付いた空気を、左側の仲間が切り裂いた。

「……時間だぞ」

はっとしてすぐに色を切り替える。下が騒がしくなっていたが、僕はもう下を見る気になれなかった。

「これが……事故なんだ」

向かいの仲間が呟いた。僕も小さく頷く。右側も向かいも僕も、顔が真っ青だ。

もういっそ、全員青く変色しちゃってもいいじゃないってくらい。

「あなたは……どうして平気なんですか」

僕は聞いた。自分でも分かるくらい震える声で。

左側は普段無口なのか、あまり会話をしたことない。寡黙というか、淡々と仕事をこなすイメージの信号機だった。

「別に、平気なわけではない」

左側は表情も変えずに言った。

「だが、自分たちにまかされた仕事がある以上、それは全うするべきだと思う。人間が自分たちを造ったのも、人間ではできないことを任せるためだろうからな」

僕は圧倒された。彼は、左側は、信号機として生まれたことに誇りを持っているのだ。それこそ、自分の仕事を愚痴っていた右側とは正反対だ。

なんか、カッコいいなぁ。

「その……なんか、ごめん」

右側がばつが悪そうに呟いた。左側はまた無表情に「気にしてない」と返し、向かいの彼女は吹き出した。

そんな仲間を見てると、なんだか心が落ち着いてきた。自然と笑顔になれた。

この仲間、やっぱり好きだなぁ。

雨が降っても、今日みたいに事故があっても、この3人となら楽しく過ごせそう。


「ほら、時間だよ」


仲間の声がする。

僕も、それに応えるように


今日も色を変えるんだ。

「そんな……!!」

絶句した。

お母さんが出したのは、ドラマとかでよく見る書類。

離婚届

家族の絆を全否定できる紙。

今の私には、それがとてもどす黒いものに見える。

「嘘じゃないわ。さっきも言ったけど、もう私達は一緒に暮らせないの。近いうちに引っ越すことになるから……」

「引っ越す!?」

頭が真っ白になった。

それこそ、嘘みたいな話だ。

この町を出るということは、それはもちろん、彼に会えなくなることを意味する。

そんなの、絶対耐えられない。

「どうしてこの時期なの?私、今年受験なんだよ!」

動かない頭を無理矢理回転させて、うまく反論したが、すぐにお母さんに論破された。

「こんな時期だからよ。幸いまだ9月だから志望校の修正は可能のはずよ。それに、あなたの今の成績なら、まともな公立にも難なく入ることできるでしょ」

「つまり……」

「志望校を変えなさい」

そうなると思った。

だけど、それは受け入れられるものではないし、何より、こんな形で成績の話が出てくるのがものすごくショックだった。

(私は、そんなことのために勉強してきたわけじゃないのに……!)

だけど、お母さんは私の気持ちに全く気付かない。

私の成績が良いことも、当たり前のことだと言わんばかりだ。

足元の床が段々崩れていく気がした。

「……引っ越すって、どこに行くの?」

「中ヶ原市よ」

眩暈がした。

ここから片道でも3時間以上かかる。

お父さんは、さっきから何も言わない。

ただ、辛そうに手を組みながらうつむいている。

部屋の中が静かになると、沈黙に耐えられなくなったかのようにお父さんが口を開く。

「なぁ、やっぱりすぐじゃなくてもいいんじゃないか。せめて美羽が卒業するまで……」

「だめよ」

お母さんが無表情に切り捨てる。

「美羽は全く知らない場所に行くのよ。早いうちに向こうに行って慣れてもらわないと大変だわ」

「それこそ、卒業してからでも問題ないじゃないか。寧ろ、今の時期に転校なんかしたら、それこそ美羽が可哀想だ……」

「それに」

まるでお父さんの話などなかったかのように、お母さんは続けた。

「向こうに住んでいる叔母が最近病気がちで寝込んでいるのよ。周囲に誰も住んでいないから、身の回りの世話も誰かがしないといけないのよ」

なんだそれは。

それは、卒業を目前に控えている娘の事情を全て無視していいことなのか。
お父さんの言葉にも、お母さんは耳を貸さない。

前は、もっと仲良さそうに喋ってたのに……。

これが、「離婚」なんだなって、ぼんやりと思った。

「お父さんは……これからどうするの?」

私は一縷の希望にすがった。

もしお父さんがこっちに残るのなら、無理を言ってでも一緒に残る。

高校からバイトしたって構わない。

彼のところに残れるなら、何でもする…………!

お父さんは、頭をかきながら言った。

「お父さんはな……実家に帰ることにしたよ」

「え?実家って……」

お父さんの実家って、車で半日もかかる場所なんじゃ……。

「あぁ、言い忘れてたけど」

ここで、お母さんがまた口を開く。

「この家、売ることにしたから」

「はぁっ?」

何を言っているのか、一瞬理解できなかった。

この家を、売る?

そんなことしたら、本当にここに残れなくなってしまう。

まだ中学生の私には、どうすることもできなかった。


「今年の10月に、中ヶ原市に引っ越すことになりました」

私の発表を聞いたクラスメイトの動揺は、予想以上だった。

友達から普段話したことのない人まで、みんな集まってきてくれた。

「美羽、なんでこんな時期に転校しちゃうの?」

「卒業まで一緒にいるんじゃないの?」

「こんなのあんまりだよ!」

中には、もう泣いてくれてる人もいて、嬉しかった。

けど、私がなによりも胸が動いたのは――

「…………」

寂しそうに私を見つめる彼の姿だった。


「葉風くん」

放課後

私は思い切って彼に声をかけた。

彼はキョトンとしながらも、立ち止まってくれた。

「何?」

「あ、えっと……」

いざ声をかけたはいいけど、何を言えばいいのか考えてなかった。

まだ引っ越すまで2週間はあるし、お別れの挨拶は早すぎるし、こんな昇降口の前で「好きです」なんて言えるわけがない。

うぅ……馬鹿だなぁ、私。

「土師さんが引っ越すのって、もうすぐだっけ?」

すると、彼の方から話題を振ってくれた。

やっぱり優しいんだなって思う。

「ううん、まだ2週間あるよ」

「でも、あと2週間しかないんだよね、一緒にいられるの」

「一緒に」という言葉にドキッとした。

あ、あれ?やっぱり彼も寂しがってくれてるのかな?

もしそうなら、すごく嬉しいけど。

目の前に彼がいる。

でも、もうすぐそれもなくなるんだと思うと、とても苦しくなる。

やっぱり、ここで言ってしまいたい。

「好きです」って、告白してしまいたい。

「あのっ、葉風くん」

「え?」

言おう。

彼に、素直な気持ちを伝えよう。

ゆっくり息を吸った時、脳裏にある言葉が浮かんできた。


『葉風くんに好きな人ができたって噂、本当かなぁ?』


「あ……」

言葉が尻すぼみになって消えていった。

それは、夏休み前に友達から聞いた言葉。

もしこれが本当なら、私は言うわけにはいかない。

もう彼に会えるか分からないのに。

私は、代わりに違う言葉を伝えた。

「頑張ってね、葉風くん」

これが、精一杯。

私が彼に伝えられる精一杯。

他の人と結ばれるのを応援するなんて、胸が締め付けられるくらい苦しいけど、私は必死に笑顔を作った。

彼は、(気のせいだろうか)悲しそうな表情をしたけど、すぐにほほ笑んでくれた。

「うん、ありがとう」

「じゃあ、ね」

「うん。また明日」

彼はそのまま歩いて行ってしまった。

私は、その場から動けなかった。

涙がぽろぽろこぼれてくる。

「あれ……おかしいな……。なんで止まらないんだろ…………」

そのまま声をあげて泣いてしまった。

失恋って、こんなに辛いんだと思いながら。


結局、私は彼に気持ちを伝えずに引っ越した。

「おはよう」

学校に登校した私は、いつもの様に教室に入る。

友達からも挨拶を返してくれる中で、別の声も響いた。


「おはよう、土師さん」


「…………ぅん」

顔が紅くなるのをはっきり感じた。

「あれ?美羽どうしたの?」

「な、何のこと?」

「だって、顔赤いけど」

「き、気のせいだよ!」

気のせいではない。

あの日から、彼を見るだけでドキドキする。

家にいるときでも、彼のことを考えてしまう。

今も、彼の顔をまともに見られない。

見たいけど、どうしようもなく恥ずかしい。

なんだか、すごく頭がもやもやする。

「美羽、ほんとに大丈夫?気持ち悪いよ」

「大丈夫だよーってちょっと!?」

さらっとヒドイことをことを言う友達に盛大にツッコんだ。

そんなやりとりを、彼は後ろで笑っていた。


「美羽さぁ、葉風くんのこと好きでしょ?」

「ぶっ!?」

昼休みのお弁当中

友達がとんでもないことを言ってきた。

「え……ちょっと何言ってるか……分からないなぁ…………」

「いや、分かるわ。あんたの反応見てて分からない人絶対にいない」

「そんなに!?」

(隠してきたつもりだったのに!!)

一緒に食べてた他のクラスメイトまで、綺麗に頷いてくれた。

ぐぅの音も出ないとは、言いえて妙だと思う。

「い、いつから、気付いていたの、かな?」

「去年の11月くらいだったかな」

「そんなに!?」

「あんた、そのツッコミ2回目」

要するに、あの鍵を失くした日から間もないうちにバレていたらしい。

大きくため息をついて机に突っ伏す。

「そんなに分かりやすかったかなぁ……」

「うん」

バッサリ斬られました。

「しかし、葉風くんもよく今まで気付かないよねぇ」

「え?気付いてるんじゃないの?」

「はぁ?いや、美羽がこんだけあからさまなのに気付かない方がおかしいか……」

「もし気付いてたら結構エグイよね~。美羽を掌の上で転がしてるってことじゃん」

「あはは~、想像できるわ」

「皆さんさっきからひどすぎないですか!?」

いつもと変わらない日常。

さんざんからかわれながらも、私はこんな時間が大好きだった。

家だと、最近はお父さんもお母さんも忙しいのか、会話が少なくなってきている。

お父さんが突然残業が入ったと言って、家に帰らない日が増えてきた。

お母さんの忙しさも変わらず、結果的に家では一人の時が多かった。

私は、最低限の家事をやると、部屋で黙々と勉強していた。

簡単な料理で食事を済ませ、翌日の準備をして寝る。

これが、だんだん定番になってきていた。

もはや、家のことは全て私がやっていた。

一人暮らしと、何も変わらなくなっていた。

どんなに「二人とも忙しいから」と慰めても、寂しいものは寂しい。

だから、こんな友達とバカ話できるのが、素直に楽しかった。

「そういえばさぁ」

ふと、友達の一人が呟いた。


「葉風くんに好きな人ができたって噂、本当かなぁ?」


ゴトリ

私の中で、何かが揺れた。

「は?何それ。聞いたことないんだけど」

「彼の友達が言ってたんだって。最近、その人のことをじっと見てることが多いんだって。気になって問いただしてみても、なんでもないってはぐらかされちゃって」

「えー、超怪しいじゃん」

「その相手って、美羽だったりして」

「あ、あはは……」

思わず笑い返したが、自分でも分かるくらい不細工だった。

「もしかしたらさぁ、時雨さんとか?」

「あぁ、幼馴染なんだっけ?」

「そうそう。しかもさ、すっごく仲良いじゃん」

「え?葉風くん、時雨さん振ったって聞いたよ?」

「マジで!?」

「いやいや、それはないですわ。時雨さんめっちゃ美人だし」

「…………」

もう、口をはさむこともできなかった。

彼に好きな人がいる。

当たり前のことだけど、いざ考えてみると、すごく辛かった。

現実に一気に引き戻されたような、身がよじれるような感じがした。

否定したかったけど、否定できる材料がほとんどないことも分かっていた。

ここで否定したら、さすがにイタイ人だと思われてしまうかもしれない。

だから、何も言うことができなかった。

心の中でしか、叫ぶことができなかった。

(そんなはずない……)

(そんなはずないんだ…………!!)


そうして、真相が分からないまま夏休みが過ぎていった。

いつもの様に学校が終わり、家に帰ると、意外なものが目に飛び込んできた。

見覚えのある車が2台、駐車場に停まっている。

「帰ってるの……?」

おかしい。

今日は平日だ。

普通は二人とも深夜になるまで帰らないはずなのに……

不審に思いながらも中に入ると、やっぱり両親は帰ってきていた。

机を挟んで座っていて、見たこともないくらい表情が固い。

「ただいま」

リビングに入ると。お父さんは少し不器用ながらも笑顔で返してくれた。

しかし、お母さんの表情は険しいままだ。

「美羽、大事な話があるの。そこに座りなさい」

促されるままに、お父さんの隣に座る。

「実はね、美羽……」

そう言いながら、お母さんが1枚の紙を差し出してきた。

「お父さんとお母さん……」

その紙を見た瞬間――

「もう、一緒に暮らせないの」

私の頭はショートしてしまった。

どうして、あの時

伝えずにいたのだろう…………



土師 美羽は墨長中学校2年生。

みんなより少しだけ背が小さい以外は、普通の女の子。

他に周りと違っているところといえば、私は部活をやっていない。

両親が共働きのため、私が洗濯や片づけをしなければならなかった。

だから、友達が放課後に運動場を走り回っているのを見ると、ちょっと羨ましい。

といっても、運動はあまり得意じゃないけど。

ご飯を作る以外の家事が終わると、自分の部屋で勉強していた。

将来はお父さんンとお母さんに楽をしてほしいから、今のうちにこつこつ勉強しているだけで、とりわけ勉強が好きなわけじゃない。

けど、テストで良い点数をとった時、褒めてもらったのが嬉しかった。

そういう意味では、やっぱり勉強は好きなのかもしれない。

好きな人?もちろん……いない。

自分の時間を作るのが下手なのに、好きな人なんか作ってもなぁ……って思うし。

それに……あまり、クラスの男子と話したことないから。

以上、自己紹介終わり。


ある雨の日

私は学校の帰り道を戻っていた。

今日は早めに帰らないといけなかったのに、家の鍵を落としてしまった。

時間はそろそろ夕方、雨雲しか空に浮かんでないから、もう夜が来たような錯覚に陥ってしまう。

おかげで足元が暗くて全然見つからない。

「なんで……?どこにいったの……?」

焦るあまり、普段は流さない涙まで出てきてしまう。

(どうしよう…………)

学校まで戻ってきてしまった。

いっそ、膝から崩れ落ちれたら楽だったかもしれない。

それでも、必死に歯を食いしばって足を踏ん張る。

水色の傘の柄をギュッと握る。

それでも、涙は抑えられずに流れ出てきてしまう。

鍵を失くした男の子の元に、たくさんの鍵を持ったおばあさんが現れて助けてくれる……なんてお話があったが、あの時の私はもう空想上のあばあさんにすがりたい気持ちだった。

その時――――

「あれ?土師さんだよね?」

後ろから声が聞こえた。

思わず振り返ると、知ってる顔が立っていた。

同じクラスの葉風 海(かい)

石段の上から、私を不思議そうに覗き込んでいた。

私は急いで涙をごしごし拭う。

ものすごく恥ずかしいところをみられてしまった。

「な、なに?」

「いや、帰ったと思ってたから、どうしたのかと思ってさ」

「それは……その……」

言いよどんだが、考え直した。

今は藁にもすがる思いだった。

「家の鍵……落としちゃって」

「え?」

頭上から驚いた声が聞こえた。

私は真っ赤になりながら、必死に傘で顔を隠した。

恥ずかしいっ!!

(どうしよう……どんくさい子だと思われてるかな……?)

思えば、彼と話したのはこれが初めてだったはずだ。

初めての会話が鍵を落としたとか、情けなくて泣けてくる。

もういっそ、会わなかったことにして帰ってほしい…………

そんなことすら思った時だ。

「あのさ」

「はいっ!?」

思い切り声が裏返った。

さらに顔が紅くなる。

「土師さんの鍵って、どんな形?」

「……え?えーと、このくらいの大きさで、ストラップがついてて…………」

戸惑いながらも、しっかりと答えていく。

頑張って彼の顔を見て、顔が紅いのをバレないようにしっかりと説明する。

そして、彼は――

「え?ちょっと!」

傘をその場に投げ捨てると、河川敷を走って行ってしまった。

あわてて、彼の傘を見て後を追う。

彼は走りながら、河川敷の隅をくまなく見ているのが後ろからでも分かった。

そして、急に河川敷の端っこにうずくまる。

次の瞬間には、私に向かって満面の笑顔を見せてくれた。

その手には、私の家の鍵がぶら下がっていた。

(…………)

なんだろう

この、感じたことのない気持ちは。

風邪をひいたわけでもないのに、心拍数が上がってる気がする。

さっきとは全く違う理由で顔が紅くなってるのを感じる。

『彼』が、鍵を持ってこっちに歩いてくる。

私は、それを無意識に笑顔で迎えていた。


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本文はここから



勿論、声優

寧ろ、なりたくて今の学校に入ったのに、これで先生になりたいとか言ったらアホでしょ(笑)

まぁ、役によっては先生にも軍人にも、はたまた人外にもなれるのが声優だし


具体的に言うなら、『自分の言葉で何かを伝えられる声優』→表現者かな

この1年で、言葉の力を知る機会が沢山あって

蘇芳自身も、好きなアーティストの詞でメチャクチャ泣いたし……


言葉ってさ、本当に薬にも毒にも成りうるものだと思う。

たった一言で人を自殺にまで追い込むこともできるし、逆にたった一言で人を温めることもできる


その両極端をそれぞれ感じた自分だからこそ、表現できることがあるはずだから



日常って、いざ見回してみると、死にたくなるようなことで溢れてるじゃない?

不安、事故、失敗、罪悪感etc…

そんな毎日の中で生きていくのって、なかなか易しくはないと思う

「何もしたくないなぁ……」って無力感に襲われることもあると思う


だけど

そんな日々から少しでも逃避するために娯楽があるんだと思う。

かなり遡ると、平安時代に流行った蹴鞠や貝合わせなんかも、宮廷貴族の娯楽が目的だったんだし


日常生活を何のストレスも感じずに過ごすなんて100%無理な話

だから、いつの時代にも娯楽は存在する

スポーツ、小説、音楽、舞台……

見渡せば、実は日常の至るところに眠っているんだよね

勿論、合う合わないはあるけどね(笑)



そんな(敢えて身も蓋もない言い方をするなら)現実逃避の娯楽を職業にするというのは、本当に狭き門で

無謀だよね

色んな人に何回も笑われたし

何も知らずに「で、いつ就職するんだ?」って聞いてくる人も一杯いる


けどさ

分かってるんだよ、無謀だなんて

まともに生活なんかできないなんて

それでもさ


伝えたいことがあるんだ。

やりたいことがあるんだ。


書きたいんだ

演じたいんだ

歌いたいんだ

伝えたいんだ


他でもない

自分の声で

自分の言葉で


たった1回しか今の自分の躰で生きることはできない

自分という魂を生きられるのはたった1回

そう考えると、すごく考えるよね

自分に何ができるのか

自分は何がしたいのか


自分の場合、それが最初に言った表現者の道

生半可な気持ちではその道を歩くこともできない

簡単に地面に足を持っていかれてその場で立ちすくんで時が過ぎる…………

そんなの、御免被るから


力ずくでもいい

足を地面から引っこ抜いて

大きく踏みしめて

眼の前にある壁に向かって拳突き出せばいい

それで手が砕け散っても、その殴りかかる姿を嘲笑うやつはいないんじゃないかな


自分は言葉に救われた。

だから、今度は自分が誰かの力になりたい。

ネガティブな誰かに影響を与えたい。


他でもない

自分の声で

自分の言葉で

頭の中がフリーズした。


姉の――母の体が力なく跳ねる。

ゆっくりと倒れ、妹の遺体の側に横たわる。

母の顔は、それでも笑顔だった。


悲鳴が口から溢れ出す。

感じたことのない激情が体を駆け巡る。

男が俺の頭を無造作につかみ、投げ飛ばす。

叩きつけられた痛みにうめきながらも、頭の中にあるのは母の死への哀しみだけだ。

男は、俺の悲鳴が収まるのを待っていた。

いつのまにか、部下の姿は消えていた。

部屋には偽りの姉妹の亡骸、男、そして俺だけだ。

男は俺に銃を向けながらも、撃とうとはしなかった。

「…………殺せ

低い声が聞こえた。

「俺を……母さんのところに連れていけ」

その声が俺自身のものだと気付くのに時間がかかった。

今まで出したことのないほど憎悪を含んだ声を男に静かに叩きつける。

「お前の母は悪魔だ」

男が言った。「目的のためなら手段を選ばない。実の父を見殺しにすることも、医師や全く知らない俺達の家族の名前を奪って他人の幸せをぶっ壊すことも」

俺は何も答えない。

ただ体を震わせて泣くことしかできない。

だけど、少しずつ鮮明になってきた頭が、男の話を理解しようとしている。

「これが、お前の母の真の姿だ。自分のために他人を簡単に切り捨てることができる恐ろしい女だ。実際、俺の前に現れた時も、一度軽く謝っただけだったしな」

「ああ…………」

もういい。

聞きたくない。

これ以上、俺の母を汚すな……!!


「だが、それもほんの一部にすぎん」


「…………え?」

何を言ったのか、理解できなかった。

男は俺に銃を向けながら続ける。

「あの女は関係のない人を大勢巻き込んだ。本当に多くの人を不幸にしてきた。それは事実だ。

だが、子供を産むことに対する強い信念も、お前を命がけで守ろうとする痛いほどに深い愛情も事実だ。それをすべて合わせて、お前の母親ってことだ」

ちらりと、廊下で死んでいる兵を見る。

「こいつらは俺の叔父の部下だ。お前が人工授精で産まれたことを知って、政府との取引に使おうとお前をさらいに来たんだろう。だが、全員お前の母に殺された。あの女の体がボロボロだったのを見ただろう。あの女はお前を守るために必死に戦ったんだ」

男はもう一度俺に目を向ける。

先程に比べて、ほんのかすかに手が震えている気がした。

「俺は叔父の兵が失敗したとき、お前を殺すか、お前の親だということを明かして仲間に引き込むつもりだった。だが…………」

男はギュッと唇を結ぶ。

そして、引き金を引いた


銃弾は俺のすぐ近くの床を貫通していた。

唖然として男を見ると、彼は顔を伏せていた。

わざと外したということに、やっと気付いた。

「…………行けよ」

男が呟いた。

「今は街はクーデターの真っただ中だ。流れ弾に気を付けて西に向かえ。小さい森があるから、そこでしばらく隠れてろ。クーデターが終わるまでどれだけかかるか分からないが、期を見計らって森を抜けて他の国へ逃げるんだ。この国と違い、名前が無くてもそれなりに幸せに暮らせるはずだ」

「……あなた達は、行かないの?」

俺の問いに、男は小さく息を吐く。

「これは復讐戦だ。俺達から名前をぶん取ったこの国へのな。お前の母への復讐は果たした。あとは、名前を奪うなんて法律を作った国家をつぶすだけだ」

男は銃を下げ、後ろを向いた。

「俺はお前を許すわけにはいかない。お前が産まれなければ、俺達が名前を失くすことはなかったんだからな。だが、子供の命まで奪うほど落ちぶれちゃいないつもりだ。だから、見逃してやる」

「あの……」

「勘違いするな」

俺の言葉を男が遮る。

「お前は俺の子供なんかじゃないし、本当はお前をこの場で撃ち殺したいほど憎いんだ。だが、ここから逃がすのは、お前を命がけで守ったそこの女の執念に敬意を払っただけだ。さっさと俺の前から消えてくれ」

男はこちらと目を合わせようともしない。

ただ、銃を担いで後ろを向いている。

「…………ありがとう

俺は、ようやく微笑むことができた。

母が死ぬ直前に俺に遺した言葉を思い出す。


生きて


「ありがとう、母さん

声に出して呟いた。

それだけで勇気が満ちてくる気がした。

俺は、そっと男の背中に視線を向ける。

そして、相手に届くようにはっきりと言った。

「ありがとう……父さん

男の背中がびくっと震えた。

しばらく呆然としていたが、少しずつ体がふるえていく。

「……行け」

それが、最後の言葉だった。

俺はふと、妹が使っていた機織機に近づいた。

すぐ側まで近づいて、そこにマントが出来上がっているのに気付いた。

妹がずっと作っていたものだ。

まるで、今この瞬間のために、俺の旅立ちを見越していたかのようだった。

マントを羽織り、母が持っていた銃を持ち、歩き出す。

けど、すぐに立ち止まって後ろを振り向く。

そこには、姉妹が――母と医師が静かに横たわっていた。

2人とも表情は違えど、どこか幸せそうだった。

「……ありがとう」

(さようなら…………)

心の中で2人に別れを告げた。

もう、悲しくはない。

俺は色々な人に愛されていたと、知ることができたのだから。


あなたはこれで自由。元々名前がない私達は誰よりも自由なんだから


そうだ。

俺達は自由。

誰よりも、何よりも。

自由な存在なんだ。


さぁ、行こう。

本当の自由を謳歌しに。


俺は、男の横を通り、館を永遠に後にした。

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次回、回想篇へ――