この年の初舞台生69期は才能豊かな人が揃った学年だった。トップに立ったのが月組久世星佳、雪組高嶺ふぶき、星組麻路さきの3人に、娘役トップが雪組神奈美帆。男役スターでは海峡ひろき、友麻夏希、美輪さいこ、千秋慎等に加えて今も劇団で振付家として活躍している若央りさがいた。娘役も豊作で麻木瑞穂、ずば抜けた歌唱力で宙組と月組の組長を務めた出雲綾、可憐なダンサー檀ひとみ、強烈な個性派だった美月亜優等がいた。
1~2月星組「こぶし咲く春/ラブ・コネクション」に続く2~3月花組が順みつきの退団公演となる「霧深きエルベのほとり/オペラ・トロピカル」だったが、順はこれによって当時の全4組において単独主演を果たしたこととなった。前公演において松あきらと一緒に花組後継トップの予定のはずたった二番手寿ひずるが退団していたために、カール順に対して平みちが二番手フロリアンで出演していた。しかし5月の東京公演に先立つ地方公演(全国ツアー)から高汐巴が次期花組トップの予定で、平と入れ替わりで雪組から戻って出演となった。尚、東京公演は7月に上演された。高汐が寿と入れ替わりで雪組に組み替えになってから、わずか1年後のことだった。併演のショー「トロピカル」は草野旦の作で、幕開けから最後まで大階段を使って進行する斬新な演出が話題となった。
4~5月大劇場は月組「春の踊り~南蛮花更紗/ムーンライト・ロマンス」だったが、8月の東京公演では前年大地真央のお披露目となった「愛限りなく/情熱のバルセロナ」が上演された。一方4月の東京宝塚劇場は瀬戸内美八の退団公演となる星組「オルフェウスの窓~イザーク編」が東京初演で上演された。原作は「ベルばら」同様池田理代子作の漫画だったが、本来の主役である男装の麗人ユリウスを峰さを理が演じ瀬戸内はユリウスに恋するイザークを演じた。一方ユリウスの思い人クラウス役に専科から榛名由梨が特別出演となり、姿晴香はイザークの妹ロベルタ役となっていた。大劇場では5~6月雪組「うたかたの恋」が麻実れいと遥くららのコンビで初演された後、7~8月星組で「オルフェリウスの窓」が上演された。瀬戸内はこれをもって退団となり、楽日の翌日にはアメリカへ向けて旅立ったとか。
しかし8~9月は再び雪組公演となって「ブルー・ジャスミン/ハッピーエンド物語」が上演された。この辺の詳しい経緯は覚えていないが、遥くららを東京と宝塚の両地で何度も見られて楽しかった記憶だけが残っている。我ながら相当のぼせ上っていたようだ。とにかく多分最後は宝塚大劇場でサヨナラをしたいという瀬戸内の希望があって、かなり変則的な公演スケジュールになっていたのだと推測される。結局雪組の東京公演は、12月に「うたかたの恋/ハッピーエンド物語」という美味しい組み合わせで鑑賞することができた。公演スケジュールを見直してみたら雪組は3月に「パリ変奏曲/ゴールデン・ドリーム」東京公演があったので、併せて年間4公演もあったのだった。「うたかた」は今年花組で30年振りに大劇場で再演される等柴田侑宏作品の名作の1つで、この公演から花組トップに栄転した高汐巴に代わって花組から来た平みちが二番手になっていた。また平の相手役には、後にあの日航ジャンボ墜落事件に巻き込まれることとなる北原遥子が当たった。ルドルフの父親ヨーゼフ皇帝を、麻実より5期下の箙かおるが迫力の演技で演じていた。又ラリッシユ夫人の晃みやびがショーでは男役で登場してキザっていたのも思いだされる。この頃晃は芝居では娘役、ショーでは男役という二刀流をこなすユニークな生徒だつた。「ハッピーエンド」は草野旦作の映画スタジオを舞台にしたストーリー仕立てのショーで、コミカルな味わいのしゃれた仕上がりとなっていた。この年は麻実・遥コンビのまさにゴールデン・イヤーとなった年だった。
大劇場10~11月花組「紅葉愁情/メイフラワー」は高汐巴のトップ披露で、相手役に若葉ひろみ、二番手大浦みずき、三番手朝香じゅんという、これはこれで相当強力な体制ができあがったのだった。また11月は東京でも星組新トップ峰さを理のお披露目公演となる「アルジェの男/ザ・ストーム」が上演された。高汐と峰は同期で、ほぼ同時に東西でトップに就任したことになる。二番手に山城はるか、その下に日向薫と紫苑ゆうが続いた。ただし前任の瀬戸内美八が宝塚でサヨナラとなったために、峰のトップ披露が中途半端な形になったのが、少々気の毒ではあった。またこの公演をもって瀬戸内の相手役だった姿晴香が退団となった。以前も述べたが、当時は同時退団は禁じ手でコンビといえども退団は1公演でもずらすことが不文律となっていたのだった。
大劇場11~12月は月組「翔んでアラビアンナイト/ハート・ジャック」だったが、「翔んで」は植田作品としては珍しく肩の凝らない娯楽作で、庄野真代のヒット曲「飛んでイスタンブール」や、当時TVでドラマ化もされた人気漫画「翔んだカップル」をもじったタイトルだったのだろう。
1983年(S58年)は花組順と星組瀬戸内の退団により高汐、峰の新トップが誕生し、月組大地・黒木コンビも活躍した。特に雪組麻実・遥コンビは全盛期を迎えて、大地と麻実を中心とした次世代が完全にベルばら4強世代に取って代わった年となった。