7月に一度訪ねたときにはあいにくの雨模様で

ただ通り過ぎてしまっただけの有栖川宮記念公園。


その時と同様に都立中央図書館 への行きがてら、

今回はひと回りしてちゃあんと公園の主である?有栖川宮熾仁親王之像にも

お目にかかってきました。


有栖川宮熾仁親王之像@有栖川宮記念公園


軍装勇ましい馬上の姿は、陸軍大将で参謀総長も務めた有栖川宮熾仁親王らしい。

(ちなみに猪苗代湖畔で見た洋館・天鏡閣 を建てたのは威仁親王で弟になります)

頭上に一点輝く旭光はあたかも明治日本の日の出の勢いであるかのよう…

と言いつつ、その辺を賛美するつもりはいっかなありませんけれど。


元は三宅坂の参謀本部にあった像なので、

いかめしいのも無理はないところですな。

それとバランスを取るようにこんな像もありました。


新聞少年の像@有栖川宮記念公園


新聞配達をする少年の姿。新聞少年の像ということです。

軍服の陸軍大将とはずいぶん趣が異なるので、バランスを取るように…てなこと言いましたが、

勤労少年の姿となると、いささか国の姿勢の息掛かりかとも思ってしまうような。


とまれ、少年の後ろにぼんやり写っているのが都立中央図書館。

ここが本来の目的地でありまして、企画展示「中世の技と美 彩飾写本の魅力にふれる」を

覗こうという算段でありました。


企画展示「中世の技と美 彩飾写本の魅力にふれる」@東京都立中央図書館


まずはひと渡り、紙の歴史、印刷の歴史、

そして製本・装丁の歴史といった展示・解説を見て行った後、
ようやっと中世写本の世界へと誘われることになりますが、

この前段の歴史的な部分もなかなか興味深いもの。


先日、神代植物公園 でまさに「生えている」パピルスを見たことからの

興味繋がりもあったと思いますが、パピルスから作り出された紙というのを手に取ってみると、

何やら感慨深さが。


ただ繊維がくっきりとした粗い紙だなぁという印象。
例えていえば、おにぎりを包む竹の皮あたりを思い出すところかと。


お隣には羊皮紙が置いてありましたけれど本の頁に加工する前ですので、
いかにも「剥いだな」という形が残っている。


そしてよく見れば、鳥肌状に毛穴らしきものが判別され、
薄く白く伸ばされてはいるものの「元は動物」ということがありありでしたですねえ。


ところで紙の発明ということでは、

かつて習った世界史の授業的には唐の蔡倫の名前が浮かびます。


こうした歴史に関して授業で習ったことというのは、

鎌倉幕府の成立年 やら足利尊氏の肖像武田信玄の肖像 やらあれもこれも

その後の調査研究で覆されたりしているわけですが、紙の発明もまたしかりのようす。


旧来は後漢の時代(25~220)の宦官であった蔡倫が発明者とされていましたけれど、
どうも製紙法というものはそれを遥かに遡った約2200年前には中国にあったそうで、

2世紀ころにはトルキスタン地方にまで伝わっていたそうな。


これが793年にはバグダッド に、10世紀にはカイロにそれぞれ製紙工場が作られ、

ヨーロッパにはアフリカ北岸からイベリア半島 経由で伝わり、

1151年にスペインのバレンシア地方に工場が出来たのがヨーロッパ初なのだとか。

改めて紙に関しては後進国であることが窺えますですねえ。


西への広まりはこんなふうですが、反対に東の方はといいますと、

3世紀には朝鮮半島 に、そして610年に高句麗から日本へと伝えられたことになってます。


地の利があるとはいえ、ヨーロッパより500年は早い。

そこから、独自に和紙の文化を築いてきたわけですから、

やはり侮りがたいものがそこにはあるのだなと思うところでありますね。


で、あらためて蔡倫の役どころはといえば、

それまでの製紙技術を改良して集大成した人物ということになるらしい。


と、製紙法で完全に後れをとったヨーロッパですが、

印刷の方では一頭地を抜きんでたようで。

要するにグーテンベルクによる活版印刷術でありますね。

1445年頃のことです。


ただし、ちなみにですけれど、

制作年代が明確になっているとの条件付きでの世界最古の印刷物はどこの国のものか?

これが何と日本の「百万塔陀羅尼」というものなんだそうですよ。


陀羅尼というのは仏教の呪文にようなものらしいですが、

それを印刷したおみくじくらいの紙を納めた小さな塔を作りも作ったり、100万!

770年のことだと言いますが、百万個を作るとなれば印刷が大活躍だったのでしょう。


ところで、活版印刷の方は製紙術の伝わりとは逆経路をたどりますが、

西洋式の活版印刷術が日本に到来したのは1590年、

天正少年使節 の帰朝によってだそうです。


ということで製紙法と印刷術のことで長くなってしまいましたが、

いよいよ彩飾写本のコーナーへ。

「彩色」ではなくて「彩飾」なのですよね。
確かに色が付いているというレベルの話でなくして、これでもか!と飾り付けたふう。


とはいえ、展示されているのは「本当の本物」ではなくして、
原本から忠実にそれこそシミや欠損までも)再現したファクシミリ版と言われるもの。


なんだ実物じゃあないのかとは思うものの、ファクシミリ版とて
世界中で限定何百部てな具合にしか作られないものですから、これはこれで貴重品でしょう。


ただ、実物にはあり得ないほど簡易なガラス・ケースで、
しかも照明を落とすことなく煌々とした灯りの中でじっくりと見られるのは利点かと。
さらにはそうしたファクシミリ版の一冊が実際に頁をめくって見られるというおまけつき。


さすがにファクシミリ版では羊皮紙を使ってはいないものの、
質感含めて近い感触の紙を用いているのでしょうね。
そして頁ごとに相当不揃いなところも、ケースの中の見開きだけではわかりませんが、
こんなに大小の違いが頁ごとにあるのだなぁと、「手作り」を改めて意識したのですね。


いくつかの彩飾写本を見ているうちに、
頁ごとの不揃いが少なそうなものほど、そして金の使用量が多そうなものほど
手がかかり費用もかかったものでしょうけれど、その手の取り分け豪華な本は
教会関係、とりわけ教皇絡みで作られたものに多いなと気付いたわけです。


事の善し悪しは別として、
満艦飾の彩飾写本からは中世の権力構造が透かして見える気がしたものでありますよ。