12月に入って毎年のことですが、
オーケストラの演奏会は第九で埋め尽くされんばかりの状況でありますね。
ただ、そんな中に混じってちらりほらりとクリスマス絡みの音楽イベントも。
ということで、そんなクリスマス・コンサートをひとつ聴きに行ってみたのでありますよ。
とはいえ、大雑把に言いますとクリスマス・コンサートにも定番曲といったものがあるわけでして、
例えばモーツァルト
の「アレルヤ」やヘンデル
の「ハレルヤ・コーラス」、
讃美歌の「荒野の果てに」、そしてバッハ
=グノーの「アヴェ・マリア
」、
近頃はカッチーニの「アヴェ・マリア」もよく取り上げられるようで。
そして、もそっとクリスマス・ファミリー・コンサートてなものになりますと、
「ジングル・ベル」が入ってきたり、ルロイ・アンダーソンの「そりすべり」なんかも演奏されるかも。
とまあ、ずらずらと並べてみましたのは、
これ今回は全部不採用!という内容だったからでありまして、
その分ずいぶんと落ち着いた雰囲気に終始包まれていた演奏会であったなと思うのですね。
雰囲気という点では、会場がとあるキリスト教系大学のチャペルだものですから、
そんな感慨もひとしおというところでありましょうか。
ピリオド楽器でヴァイオリンがお二人、その他にヴィオラ、ヴィオラ・ダ・ガンバ、
ヴィオローネ(遠目に見ると弦バス)がそれぞれお一人、
これにチェンバロというアンサンブルにソプラノが加わる編成。
この演奏会のために集ったとまではいえないのでしょうけれど、
恒常的に活動する団体ではない(グループの名称がありませんし)ようで、
それだけにお互いに花を持たせるべく?いろいろな組み合わせで演奏を聴かせてくれるところも
一興というわけです。
でもって曲目はといえば、フォーレ
やシューマン
、ブラームス
の小品を挟みつつ
(これらの曲のときにはチェンバロでなくって、フォルテピアノを使ってましたですね)
バロック期の宗教曲からの抜粋(全曲は長いでしょうから)がメインでしょうか。
最初の曲は「いかにも!」的ではありますけれど、
アルカンジェロ・コレッリ
の「クリスマス協奏曲」。
バロックの作曲家によるクリスマス・コンチェルトはいくつかありますけれど、
このコレッリの曲がいちばん有名なのではないかと。
どうも協奏曲というと、その後に定番として形を得た急緩急の三楽章ものと思ってしまうのですが、
この曲はそうした形になる前の教会コンチェルトという様式だそうで、
緩急の交代が自在に行われる感じでしょうかね。
バロック・ヴァイオリンの幾分ざらっとした音色が、
モダン楽器の艶やかな輝かしい音に聴き入るのと違って、
会堂に集った人たちの、祝祭日を寿ぐ気持ちをひとつにするような気がしてきます。
実のところ、専用のコンサート・ホールでない会場はかなり寒いのでして、
上はコートを着たままでいいものの、座席は教会でイメージできようと思いますが、
木の長椅子でありますから、深々と冷えてくるわけであります。
ところが、先ほど申し上げたような寿ぎの気持ちといいますか、
そうしたものが心を暖めてくれるような。
特段の宗教心を持たない者であってもですので、不思議なものですね。
何年か前にマルカントワーヌ・シャルパンティエ
「真夜中のミサ」の演奏会が
クリスマスにあって聴きにいきましたけれど、そこでも感じたのは「ほっこり感」。
それが、今では当たり前と思える十分な暖房といったものが得られない場所では
なおさらのこと「ほっこり」が際立つ気がするという。
たぶん、たぶんですが、昔々のヨーロッパの人々は寒い寒い冬の日に
イエス・キリストの降誕を祝すために集った会堂はもっともっとずぅっと寒かったでしょうけれど、
やはり皆で寿ぐ儀式を通して暖かな気持ちを点していったのではなかろうかと思ったり。
演奏会の方は、曲が進んでアレッサンドロ・スカルラッティの降誕祭のための田園カンタータで
主の誕生に立ち会う追体験をした後に、最後に演奏されたのが先に触れた「真夜中のミサ」から
「ヨゼフは良き妻を娶り」という一曲。
リフレインされる「Joseph est bien marie」の部分を帰る道々、
頭の中で反芻して気持ちの温もりを保っていたのですけれど、会場から最寄りの駅にたどり着くと
そこでは近頃どこの駅前でも流行りのイルミネーションが煌びやかに点っておりました。
これはこれで綺麗ではあるのですけれど、青と白を基調にしたくっきりしたもの。
あちこちのイルミネーションはクリスマス・ツリーの飾り付けからどんどん大規模になって
冬の時期の風物詩
的なものになりましたけれど、クリスマス演奏会を聴き終えてきた者には
どうも「おや?」という印象。
くっきりきらきらとは違う、ぼんやりとでも温みのある暖色の灯り。
そうしたものが実はクリスマスを迎える人たちの心持ちを表すものでもあろうなぁと
思ったものでありました。