しばらく前に埼玉県立近代美術館で開催しているときに行こう行こうと思いつつ、
見逃してしまった「アンリ・ル・シダネル」展。
これが新宿の損保ジャパン東郷青児美術館でやってるとなれば、言ってみようと思うわけでして。


とはいえアンリ・ル・シダネルという画家の名前は
今回の巡回展で知るまではついぞ知らずじまいできてまして、
フライヤーに使われた作品を見てむくむくと関心が!といったらいいでしょうか。


アンリ・ル・シダネル展@損保ジャパン東郷青児美術館


1862年生まれのアンリ・ル・シダネル。

遅めの印象派 風にも見えますように「最後の印象派」と呼ばれることもあるそうで。


時期的には当然のように印象派やポスト印象派の影響を受けているものの、
ひと影のない街中の風景などからはフェルナン・クノップフ あたりを偲ばせる象徴主義が感じられなくもない。


アンリ・ル・シダネル「運河〔アミアン〕」

それは、印象派には極めて少ない夕暮れや夜の景色という

輝く光がない世界を描いていることが関係していますですね、きっと。


経歴としてはアカデミスム側のアレクサンドル・カバネル の私塾に学んだこともあって、
初期作はいかにも正統的な風を湛えていたものの、もやっとした空気感が出てきたと思うと、
クノップフを思わせるところまではほんの一投足といったふうでしょうか。

この「朝〔モントルイユ=ベレー〕」(1896年)などまさにの印象です。


アンリ・ル・シダネル「朝〔モントルイユ=ベレー〕」


ただ、光がちらつくような筆触が見えてくるとまた違った趣きでありまして、
「夕日のあたる大聖堂(ボーヴェ)」(1900年)あたりを見ると、
アンリ・マルタン と仲良しであったのもむべなるかなと思ったりしますね。


アンリ・ル・シダネル「夕日のあたる大聖堂〔ボーヴェ〕」

一方でひと影がないとは先に書きましたけれど、
これが際立つとひと気のなさに繋がって例えば岡鹿之助 のような独特の、
なんだか落ち着かない気にさせられる静謐さ、シュルレアリスム の空気に近いものなりますね。


アンリ・ル・シダネル「階段〔ジェルブロワ〕


ところが、ル・シダネルの場合には
描かれた窓のひとつに(多くはひとつにだけ)ポツンと灯りが点っていて、
これが人のぬくもりを想起させる、どうやら特徴なんではないでしょうか。
こうしたぬくもり感はおよそマグリット などには感じないもところではないかと思うわけです。


別の画題、家族の肖像などでは
モーリス・ドニ 描く家族像に温かみを感じたのと同じようなものがあるような気もしますから
ル・シダネルの本来はやっぱり冷たい静謐さにあるのではないなと思われますね。
「手近なもの、特に室内画を、情感を込めて描く画家」とされるアンティミストに位置づけられるのも
分かる気がするところです。


初めて作品に接した画家ではありますけれど、
風景だけでも何やら物語が醸し出されるようでもあるル・シダネルの作品。
また図録でもってじっくりと反芻するといたしますかね。