このあいだ「牧神の午後 」の話の中でミダス王に触れましたけれど、
この際ですから「王様の耳はロバの耳」のお話をさらっておこうと思ったのですね。


市立図書館の近所の分館でもって検索をしたのですが、
本館にはあるもののどうやらこの分館には置いてないらしい…。


「王様の耳はロバの耳」ってのは有名なお話だろうになぁと思ったものですから、
もしかして「王様の耳」と「王さまのみみ」とかいう用語の区別で見つからないのかしらむと
今度は「ロバの耳」でやってみると、「お!ヒット!」と。


子供向けの世界民話集みたいなものの中にあるようでしたので該当する書棚の方へ向かうと
同じ書棚にやはり子供向けの「ギリシア神話」というのがありましたので、
もしかしてとページを繰ってみると、ミダス王のところに出てました。


アポロンと牧神パンとで楽器演奏がより上手なのはどちらか。
この勝負ではアポロンに軍配があがったのですけれど、
どうしてもパンの勝ちといって譲らなかったのがミダス王でして、
「そんな耳なら人間の耳である必要はない」と怒ったアポロンがミダス王の耳をロバのようにしてしまった。
これが発端ですね。


恥ずかしくてしかたがないミダス王は日頃は帽子だか頭巾だかを被ってごまかしていたのですが、
王様付きの床屋だけはこの秘密を知ってしまい、これを誰かに話したくてたまらない床屋は
誰もいないのっぱらに穴を掘ってその中に思い切り叫ぶのですね。
「王様の耳はロバの耳!!」


ああすっきりしたとばかり、穴には土をかけて埋めておいたわけですが、
やがてその穴の上の土に葦が生えてきて、風が吹くたびにそよそよとそよぐようになった。
すると、そのそよぎによおく耳を傾けてみると聴こえてくるわけですよ。
「王様の耳はロバの耳…」と。


とまあ、これが誰も知っているギリシア神話由来のお話でありますけれど、
それでは先に図書館での検索でヒットしたという民話集を見てみると、
タイトルが「王子さまの耳はロバの耳」となっていて、ポルトガルの民話と書いてある。
これは、いったい??と思ったものですから、読んでみました。


昔むかしあるところの王様と王妃様。
ながらく子どもが授からずにいたものですから、三人の妖精に願掛けしたところ、
見事ひと月後に(ひと月ですよ!)王妃様は珠のような男の子をお産みなされたそうな。


三人の妖精もお祝いに駆けつけ、「やがて立派な王様になりますよ」とか「賢くなりますよ」とか
預言を与えるのですが、先をこされて言うことのなくなった三番目の妖精が
「王子様はロバの耳になります。謙虚な人になるように」てなことを言ってしまうわけですね。


ここいら辺はまるまる「巻き毛のリケ 」を思わせますが、
王子様はやがて本当にロバの耳になってしまうのでして、王様は帽子を被せて隠そうとしますが、
やっぱり床屋が察知してしまいます。


「王子様の耳はロバの耳」と言いたくてたまらない床屋は神父さんに相談し、
そのアドバイスに従ってひと気のない野原に穴をほって叫び、埋めるとやがて葦が生えてくる。


ギリシア神話とほとんど変わるところがないわけですが、
生えてきた葦は自然に「王子様の耳はロバの耳」というささやくのではなくして、
この葦で葦笛を作ったものが吹くと「王子様の耳はロバの耳」と聴こえてくるという。
試しに王様が吹いてみても結果は同じ。


なぜ葦笛から聴こえるかの謎は全く気にかける様子もなく、
このことを知っているのは床屋だからと「床屋の首をはねよ!」と命ずるのですな。


するとここで王子様登場。

「私の耳がロバの耳だということはもう誰もが知っていることです。
 床屋は助けてやってください」と王様に頼みます。


そして皆の前に王子様が帽子を脱いでみると、あら不思議!
普通の人間の耳になっていた…というお話。
慈悲心のある、いい王子様に育ったってとこですかねえ。


それにしても、誰もが知ってることを王様が知らないとなると
今度は「裸の王様」を思い出してしまうところでありますね。


元はギリシア神話にあったものが、面白おかしいところだけ伝承されるうちに
尾ひれがついていったのでしょうし、他の民間伝承との類似性からも混交があったりもしたのでしょう。


そういう意味では、同じ図書館の棚をあれこれ見ているうちに見つけた
「金の星とロバの耳」というフランスはガスコーニュ地方の民話とされるお話は
シンデレラ 」と「金の斧銀の斧 」と「舌切り雀」(ちと唐突ですが…)を混ぜたようなストーリー。


とまれ、ロバの耳というが愚鈍の象徴として良くないことの代表みたいに扱われているのは、
シェイクスピア の「夏の夜の夢」でニック・ボトムがロバ頭にされてしまうのも同種のことなのでしょう。


ヘンリー・フュースリ「夏の夜の夢」


一方で「ロバの耳」が暴露される元になるのが葦(もしくは葦笛)であることからすると、
そこにはミダス王が勝手に信奉して面倒に思った?牧神パンの影がちらちらするではありませんか。
あれこれ、実に興味深いものだなと思うわけでありますよ。