街の片隅にある小さな公園。誰もいない。
空は厚い雲に覆われて、昼間ながら薄暗い。
ひととおりの遊具が置かれ、中央奥にはすっかり葉の落ちた大きな木が一本。
冷たい北風が強く吹き、ブランコを揺らしている。
(客席ともども場内の空調を控えめにし、少しばかり寒いくらいに)
上手からひとりの男が登場し、ゆっくりと中央に向かう。
コートの襟を立て、ソフトを目深に被っている。
背に受ける強い北風にいささかも動じることなく、堂々とした様子。
下手からはひとりの女が登場し、中央へ。
強く冷たい向かい風を受けてるようには見えないほど、軽い足取り。
二人は中央ですれ違いざまに、どちらからともなく足を止める。
男:(くぐもった声で)まだ早いんじゃないか。
女:(あっけらかんと)あら、遅いくらいだと思ったんだけど。
男:(いくらか気色ばんで)いや、そんなことはあるまい。俺の出番はおわっちゃいない。
女:(なだめ口調で)でも、もう充分に震え上がらせたんじゃなくって。
男:(得々と)まあな、心底までとはいかなかったが…。ま、作戦勝ちというところだな。
女:(おだてで聞いているのがありありの表情で)作戦勝ち?
男:(にやりとしつつ)そうさ。人間ってやつは大きな変化に弱いからな。
ちょっと油断させてから、冷たい風のひとつも吹けば震え上がるって寸法さ。
女:(ちょっとずるそうに)ずいぶん活躍したってわけね?
男:(得意満面で)おお、そうよ。口々に「早く行っちゃってくれないかしら」なんてなぁ。
女:(したり顔で)あら?早く行っちゃってくれないかって何のことを言ってるのかしら?
男:そりゃあお前、俺様が…。(しまったという顔つき)
女:(タイミングを逃さず)そう、あなたが行っちゃってもらいたいって、みんな思ってるのよねえ。
男:(度を失って、凄みがきかない)何を!これからまだひと風もふた風も吹かそうってときに!
女:(勢いで優って)もう充分!潮時なのよ。みんなが望んでいるのは、このわ・た・し!
女は一歩、男に向かって踏み出す。
男:(気圧されて、一歩下がり)いや、まだ、その、潮時なんてことは…。
女はもう一歩踏み出し、男はまた一歩下がる。
いつの間にか男の背負った北風が止み、女の後ろから南風が吹き込んでいる。
女はさらにもう一歩。男はさらに後退。
男:やめろ!コートと帽子が吹き飛ぶじゃないか!
女:いいのよ、それで。
(腰に手をあて、ぐいと上半身を男の方に乗り出しながら)コートと帽子はまた来年までお預け!
男:(女の勢いとなおのこと強くなった南風に押されながら)ひえ~!!
男は転げるように上手に退場。
女は舞台中央で大きく構え、晴れ晴れとした表情で空を見上げる。
とたんに雲間から日が差し始め、いつしかすっかり青空に変わる。
(場内の空調を暖かく調節)
女:(中央奥の大きな木を振り返り、ふっと息を吹きかけるしぐさ)これでよしっと!!
吹き付ける南風に髪をなびかせつつ、にこやかに女が下手に退場。
中央奥に置かれた木の枝々に、ゆっくりと薄いピンク色の花のつぼみが無数に現れる。
N:こうして、毎年のようにスムーズではない選手交代が告げられた。
男の名は「冬の名残」といい、女の名は「春の予感」といった。 -幕-
いつも以上に拙いものをお目にかけましたけれど、
一昨年にも「春を連れて帰る」 を書く材料を頂戴したyumimbowさんのブログ で、
「冬の名残と春の予感」という言葉を見かけたところから書き出したものであります。
最初は、弱って病床にある(?)「冬の名残」を「春の予感」が見舞いつつも引導を渡す話として書き始めて、
まずまずかな…となりつつあったのですが、どうも昨今の被災状況を鑑みて相応しくないように思える。
でもって、書き直したらこの程度のものになってしまったという…(残念)。
それでも、時折厳しい寒の戻りに晒されつつも、冬の名残を春の予感が吹き飛ばすように
もうすぐそこまで春は来ている…季節感を忘れそうなこの時期だからこそ、
拙いながらもUPしてみた次第でありました。