ロサンゼルスの話題がちと美術館から離れている隙に、
東京での展覧会のことを記しておこうかと思うのですね。


新宿の損保ジャパン東郷青児美術館で

「なんか肖像画の展覧会やってたっけ…」とは思っておりましたけれど、
謎のこうのとりさんから「フィレンツェで見るにも予約が必要」なコレクションなのだと聞き呼び、
そういうことなら行っておかねば!と思ったのですよ。


「ウフィツィ美術館 自画像コレクション」展@損保ジャパン東郷青児美術館


題して「ウフィツィ美術館 自画像コレクション」展です。

補足的に、巨匠たちの「秘めた素顔」1664-2010とあることからして、
「ウフィツィ美術館には、ごくごく最近のコンテンポラリー・アートもあったのか!」

とまず驚いたわけです。


フィレンツェに行ったとき(と、これも四半世紀以上前になりますが)には、
美術館をじっくり見て回るような発想はちいともありませんでしたから、

たぶん寄ってないのではないかと。


ドゥオモの上の方にあがったり、

フィレンツェ大学の学食でパスタ食べたりみたいなことしか覚えてませんので。


と余談はともかく展覧会でありますが、

60点ほどの自画像がぞろぞろと勢ぞろいするのも珍しいですし、
それが一つの美術館から出されていることにも驚きますね。


フィレンツェにはピッティ宮からウフィツィ美術館を経由してヴェッキオ宮に続く空中回廊があるのですが、
メディチ家の人が市街地を歩かずとも行き来できることを目的に作られたそうなのでして、
設計に携わったジョルジョ・ヴァザーリの名をとって「ヴァザーリの回廊」と呼ばれているという。


画家たちの自画像コレクションは主にこの「ヴァザーリの回廊」を飾っているのですけれど、
そうなった経緯はもしかしてヴァザーリが「芸術家列伝」なる書物を

書いた人物であったことも関係しているかもですね。

当時のメディチ家当主コジモ1世にしても、芸術家顕彰はやぶさかでないわけで、
ヴァザーリの功績と結びつけるためにも、そんな配慮があったのではと想像したりするわけです。


でもって、メディチ家が画家の自画像を求めていると聞けば、

どんな画家でも寄贈を申し出る可能性はありますよね。
「どんな画家でも」と言ったのは、それこそ言い方が悪くなりますけれど、

一流どころばかりでない者も申し出て、
受け付けてもられえば「メディチ家御用達」とか嘯いちゃったりしてたかもしれません。

それだけに自画像コレクションはどんどん膨れ上がり、展示されるのはごく一部のようですが…。


ところで、制作年でいいますと16世紀から21世紀のリアルタイム現代まで、
さまざまな人がさまざまな描き方や技法でもって自画像を手掛けているのですね。
それぞれに面白いところではありますし、その変遷を一気に見る機会でもありますけれど、
例によって個人的趣味嗜好の範囲ですが、目ぼしいところを記録に留めておくとしましょう。


まずはベルニーニ …といきたいところですが、
何となくイメージとぴったり来ないものでしたので、レンブラント でいきます。


レンブラントの自画像(本展特別パンフレットより)


自画像で有名なだけあって、レンブラントは自画像を描くことに自信があったのではと思うのですね。
顔そのものに自信があったかどうかはわかりませんけれど、
この作品(1655年頃)にしてもそうですが、レンブラントの自画像を見ていると、
見ている者に対してレンブラントが「ほおら、見ちゃうだろう」と
ほくそ笑んでいるような気さえしてきます。


続いては、上の画像にもあるとおり本展で大きくフィーチャーされた一枚、
「マリー・アントワネットの肖像を描くヴィジェ=ル・ブラン」(1790年)です。

例えば衣装の描写などの点でも、いかにも王宮に好まれるだろうなぁと想像できるのでして、
また髪の描き方の繊細さは大いに目を惹くところでもあります。


ただ、少々この人物像には(素直じゃないなと思うものの)あざとさが感じられますね。

マリー・アントワネットを描いている、つまりは女王お気に入りの画家であることの表現と、
可愛らしい女性を描こうという顔の表情なりが少々アンバランスにも見えます。
二つのいいとこ取りをしようとした結果なれば、いたし方なしではありますが…。


そしてもう一つもまた本展でクローズアップされているようですけれど、
エリザベート・シャプラン「緑の傘を手にした自画像」(1908年頃)であります。


エリザベート・シャプラン「緑の傘を手にした自画像」(本展フライヤーより)


このりりィ(という歌手をいったいどのくらいの人がご存知だろう…)のような
憂いを湛えた姿には、目が行ってしまおうというものです。


最後には少々意表を付いて?フレデリック・レイトンの自画像(1880年)を。


フレデリック・レイトンの自画像(本展特別パンフレットより)


レイトンの異国情緒好みは、ロンドンはケンジントンにある

レイトン・ハウス・ミュージアムに行けば明らかながら、
(といっても、残念ながら行ったときには改装中だったんですが…)
いかにもそうした嗜好が反映されているのではないかと。


背景にあるのはパルテノンの騎馬像だということですし、
纏っているのはオックスフォード大学のマントだと言われても

古代ローマのトーガに見えてしまったりするのですよ。

色調も、レイトンの最も有名な作品「フレイミング・ジューン」を思い出させますよね。


ということで、近年のコンテンポラリー・アートに触れるまでにはいきませんでしたが、
このウフィツィの自画像コレクションは今もまだ現在進行形でコレクションが進んでいるとか。


本展展示後にも草間彌生、横尾忠則、そして杉本博司という

日本人の3作品が所蔵されることになるといいます。

膨大なコレクションだけに、実際にヴァザーリの回廊に展示されるには取捨選択が必要ですけれど、
収蔵庫にお蔵入りせずに日の目を見るのは、こののちどのような画家たちなのでありましょうかねえ。