新聞の書評や出版社のPR誌に目を通してみると、

思いもかけず「もしかして、面白そうかも」と思う本にぶつかることがありますね。

おそらく、そうしたことを通じてでもなければ、

自らその本を選び出すようなことはおそらくなかろうというものにも。


それで失敗することはあるにしても、当たればはやっぱりうれしいものです。

先日読んだ三砂ちづる作品 もそうだし、今回の「明日、アリゼの浜辺で」もしかりでありました。


明日、アリゼの浜辺で/秦 建日子



この作品、作者は秦建日子さんという方でして、

あの映画化されて何とも言いようのない仕上がりだった「アンフェア」シリーズの原作者だそうですね。
きっと、このことだけが著者の情報としてあったら、きっと手に取ることもなかったでありましょう。


それはさておき、最初に言ってしまうと「意外と面白かったな」というのが正直なところ。
小説作品に関しては、かなりああだこうだと腐すことが多いですけれど、
これも「文学かどうか」みたいな切り口で迫ってしまうとどうしようもなくなってしまうでしょうから、
「いい話を聞いたな」てな感じにつかまえてもらえればと思うわけです。


ところで、アリゼというのは、

ニューカレドニアで一年中、西から東へと適度な強さで吹く貿易風のことだそうで、
収録されている5編の短編を読み進めると、

すべてがニューカレドニアとの関わりを持つ話で成り立っていることがわかってきます。


それどころか、前の話に出てきた人がすれ違いざまのニアミスのような形で、

次の一編に登場してくるあたり、とてもいいくすぐり。

それこそアリゼに吹かれているようですね。


それぞれの主人公は、

会社で一番海の似合わない男」を言われる中年サラリーマン、

自作のなさけなさを肌身にしみている駆け出しシナリオライター、

自分と同じ夢を持っていると思っていた彼とのすれ違いを感じ始めた女子学生などなど。
特別な人がいない分、いろんな人がどこかしらに感情移入できそうな風情を醸しています。


個人的には、こんなあたりでしょうか(ネタバレしてます)。
突然「しばらく家出をします」と書き置いて行方をくらました父親の行き先が

どうやらニューカレドニアらしいと察知した家族を代表して、ニューカレに派遣された長女が、

見つけ出した父親に理由を問い詰めるところ。

たぶん、理由は無いんだ。ただ急に、似合わないことをしてみたくなったんだよ。
お父さんに、休日は似合わない。お父さんに海は似合わない。お父さんには、会社しか似合わない。ネクタイ締めてスーツ着て話は退屈で冒険みたいなことは絶対にしない-

そういうことに飽きたんだ。

「天国にいちばん近い島」とも言われるニューカレドニア。
その白い砂浜に寝そべって・・・とまでいかなくても、
吹き抜ける風をアリゼと思って、さあて柄にもなく変わったことでもしてみましょうかねえ。