メンデルスゾーン
のヴァイオリン協奏曲の第1楽章第1主題を指して、
指揮者のパーヴォ・ヤルヴィが「あれは、クレズマーなんですよ」と言ったとか。
はて、クレズマーとは?
wikipediaに頼ってみますと、こうありました。
東欧系ユダヤ(イディッシュ)、アシュケナジムの民謡をルーツに持つ音楽ジャンルのひとつ。
そして、もっぱらヴァイオリンとクラリネットの出番が多いようでもあります。
ここで、はたと思い出すのは誰あろう、マルク・シャガール
なんですよね。
1950年代にピカソはシャガールをこのように評したそうです。
マティスがいなくなったら、色彩とは何かほんとうにわかっている画家はシャガールだけになってしまう。あの雄鶏やロバや空飛ぶヴァイオリン弾きや、ああいう民俗的なものには夢中になれないが、彼のカンヴァスはほんとうに描き込んである。手を抜いていない。ヴァンスで制作した最近の作品を見ると、光に対する感覚を備えている画家は、ルノワール以来シャガールしかいないことがはっきりわかる。
シャガールはベラルーシがまだ帝政ロシア領だった頃のヴィテブスク生まれのユダヤ人。
まさにアシュケナジムですよね。
そのシャガールの絵には、ピカソが民俗的なあまり夢中になれないヴァイオリン弾きがよく登場します。
そして、同様にロバや牛、山羊のような家畜類も多く描かれていますけれど、
貧しい農村、自身のオリジンであるヴィデブスクを想起するにやぶさかではないわけですね。
ここに至って、牛の売られていく哀しさを歌った「ドナドナ」という歌が思い出されますけれど、
これの歌もまさにクレズマーなんだそうですよ。
日本にも手塩にかけて育てた馬が売られるていくのを寂びしく思う気持ちを唄った歌なら、
三橋美智也の「達者でナ」なんつう歌があるものの、
「ドナドナ」に籠もる哀調は尋常ではありません。
謎解きの可能性として、この「ドナドナ」をジョーン・バエズが歌っていたということですね。
(もちろんイディッシュ語の原曲はもっと古い時代のものですけれど)
「反戦のメッセージが読み取れるでしょう」となりましょうか。
そもそもからして、ナチの強制収容所送りになるユダヤ人を
売られる子牛に擬えていたのではないかという話もあるようですから。
旧帝政ロシアには多くのユダヤ人が住んでおりましたけれど、
ロシア内でもユダヤ蔑視はあったようで、帝国のあちこちにまでユダヤ人が入り込まないように、
定住を許可する地域を設定していたといいます。
それが帝国の西端、つまりは東欧との境界線にあたるような、
今で言うリトアニア、ベラルーシ、ウクライナとバルト海から黒海に至る帯状の地域なわけです。
しかも、ロシアでは普通のロシア人でも18歳から25年間と長い兵役に輪をかけて、
ユダヤ人にはユダヤ人は12歳から31年間もの兵役を強いていた時期があったそうです。
早いうち洗脳してロシア化としようと意図があったそうですけれど、
実態として金持ちは役人を買収して徴兵逃れを図り、徴兵されるのは貧乏人の子供ばかり。
「ドナドナ」に託された「連れ去られる悲しみ」はこの辺の記憶にも繋がるものかもしれません。
シャガールの故郷ヴィテブスクもそんな背景を持つところであったわけで、
ベルリン、パリ、ニューヨークとあたかもコスモポリタンのように飛び回りながらも、
シャガールは故郷とのつながりとなるモティーフを描き続ける性を背負っていたのではないですかね。
