ペトリュスの61年、ロマネ・コンティの90年、ムートン・ロートシルトの45年、

シュヴァル・ブランの47年、ル・パンの82年…


ワインを飲むことはあるといっても、

「美味い=気にいった」「美味くない=気に入らない」ということでしか判別がつかないくらいですから、

門外漢なわけですけれど、冒頭に並べたのは

「マニア好みの銘柄の、マニア好みのヴィンテージ」なのだそうですよ。


では、そうしたマニア好みと言われるものがいったいいかほどの値段なのかといいますと、
例えば、1996年のサザビーズ・オークションでは、

82年ル・パンのマグナム(通常ボトル2本分)6本入りケースが47,740ドルで落札されたそうです。
普通の750mlボトル1本あたりにすると、現在のレートで約40万円てとこでしょうか。
ワイン1本、40万かぁ…。


ところが、それで驚いてはいけない。

1985年のクリスティーズ・オークションでは1本156,000ドルの値がついたワインがあるんだそうですね。


競売にかけられたのは「シャトー・ラフィット1787年」(ボルドーの赤らしい)。
単純に200年前のワインという希少性に加えて、

しかも後にアメリカ3代大統領となるトーマス・ジェファーソンが所有したもので、

ボトルにはイニシャルが彫られていることで歴史的遺品とも見られたがための高額落札だったといいます。


『世界一高いワイン「ジェファーソン・ボトル」の酔えない事情』には、
その「ジェファーソン・ボトル」の真贋をめぐる大騒動が記されているのですよ。

折りしも「ブランド」紹介の本 を読んだりしてたものですから、

ワインだってそのブランド力は相当なものだろうと思っていた矢先でありました。


世界一高いワイン「ジェファーソン・ボトル」の酔えない事情―真贋をめぐる大騒動/ベンジャミン ウォレス

結果的には、どうやら「ジェファーソン・ボトル」は「贋物だった…」ということになるわけなんですが、
犯人と思しき人物の杜撰さったらないんですね。
だいたいどこから見つかったのかを決して言わないし、「いったい何本あるのか」にもはっきり答えず、
忘れた頃に別の人にまた別の「ジェファーソン・ボトル」を売ってたりするという。


ところが、簡単にしっぽを捕まえられないのは、

「本物とは言えない」が「贋物とも言い切れない」点でしょうか。
何しろ、200年前のワインを飲んだことのある人、

まして「このワインは正真正銘、1787年のラフィットである」と言い切れる人がいないんですね。


さらに、買った側でも本物の証明が欲しいとはいえ「ボトルを開けて試してみましょう」とは言えませんね。
開けたら、飲んでしまわねばならず、それで仕舞いですから。
それに、「真贋、はっきりせんのはうれしくないが、贋物と分かってしまうともっと嬉しくない」ですし。


その点で、これを最高値の156,000ドルで落としたフォーブス家(毎年、世界長者番付を掲載する「フォーブス」誌発行人)では、飲むためのワインという意識は無かったのかもしれないですね(好意的に見てですが)。


落札を機にニューヨークの自社ビルのギャラリーで「ジェファーソン企画展」をやり、

当のボトルも展示されたそうですけれど、何とまあスポットライトの熱い光がギンギンとあたり、

干からびたコルクが瓶の中で浮いていたという話なのですから。

いかに門外漢でも、ワインを熱い光に当ててはまずいことくらいは知っていますしね。
アメリカの歴史的な遺産の一つと考えていたのかもしれません。


ですから、これほどの高値でないにしても、

別の機会に別の「ジェファーソン・ボトル」と思しきものを買ったワイン愛好家こそ、

「いったい本物なのか、贋物なのか、どっちなんだ!」とイライラしたことでありましょう。


ただ、最初に売った当時のクリスティーズ・ワイン部門責任者というのが、

マイケル・ブロードベントというワインの世界では大変な人物らしく、

その人が「贋物をつかませるわけがない」=「お墨付きを与えている」てなところから、

疑念は募るものの、くすぶり続けて20年、2006年になってようやく訴訟が起こったということなんですなぁ。


ところが司法管轄権かなんかの関係で、提訴が却下され、その後に再提訴したとかしないとか…
なんともすっきりしない展開なんですよね。

ですから、はっきり最後はこうだと書かれてませんけど、現在も進行形の話なのかもですね。

なんでも映画化される話もあるんだそうです。


ともあれ、本書中ではかつて真贋で大騒ぎした「ヒトラーの日記」を引き合いに出して、
専門家がお墨付きを与えてしまうと「そういうものかなぁ」と思ってしまいがちと言っています。
これは、メーヘレンのフェルメール 贋作も同じことですよね。


メーヘレン「エマオの食事(エマオのキリスト)」

個人的にはこの「エマオの食事(エマオのキリスト)」などは全くフェルメールに見えないんですが、
時のフェルメールの権威だったロッテルダム・ボイマンス美術館の館長(だったかな?)が

真作と認めたことで「すわ、大発見!」となってしまったのですから。
いやはや、専門家のお仕事とは、大変なものですね。