成川美術館で目に留まったと言いました堀文子
さんの画文集「トスカーナのスケッチ帳」に
こんな一節がありました。
邸には何本かの巨きな傘松があり、叢におちた松ぼっくりを探すのが楽しみになった。一本の太い幹をまっすぐに立て、頂上近くで枝別れした梢に唐傘を拡げたように葉をしげらせるイタリアの傘松の単純で力強い形は、この国の明快な風景を引きしめる重要なシンボルだ。古い街道に並ぶ傘松の群れを見ると、ローマの軍勢の進軍の音を聞くような壮大なロマンを呼び醒ましてくれる。
これを読んだら、思い出すのはもうレスピーギの交響詩「ローマの松」しかないわけです。
その最終曲である「アッピア街道の松」ですね。
(ま、もしかしたら塩野七生さんの「ローマ人の物語」を想われる方がおいでかも・・・ですが。)
ともかくそういうことで、「ローマの松」を聴きたい気分が盛り上がってきたのですけれど、
この「ボルゲーゼ荘の松」「カタコンベ付近の松」「ジャニコロの松」「アッピア街道の松」の
4つのシーンから成る交響詩には、作曲当時としては非常に珍しい(初めて?)と思われる技が
使われているということを初めて知りました。
今まで「そこに登場する」ことは知ってはいましたけれど、ずぅっと聴き流していて。
と「それが何か」をずいぶんと引っ張っておりますが、
第3曲「ジャニコロの松」の最後に出てくるナイチンゲールの啼き声が肝心な点なのですよ。
音楽の中で楽器が鳥の啼き声を模倣したりすることは、
先日書いたラモー の「めんどり」ばかりか山のようにありますけれど、
ここでのナイチンゲールは録音テープを使用する(初演時はレコード再生だった)のだというのですね。
こうなると、ただ単に「ローマの松」を聴くというより、ナイチンゲールの聴き比べです!
「ローマの松」を収録する際に、「いつもこのナイチンゲールの啼き声を使わねばならん!」とまで
レスピーギが指定しているはずもなかろうと思いますから、それぞれの録音にあたっては、
どっかから「ナイチンゲールの啼き声」なる効果音を持ってきて、一緒に収録するはずです。
となれば、当然演奏によって聞こえてくるナイチンゲールは違った啼き方をしているはずですね。
手持ちのCDをひっくり返して、取り出だしたるは3種のCD。
録音順に言うと、まずアルトゥーロ・トスカニーニ
指揮のNBC響盤(1953年録音)、
次には、フリッツ・ライナー指揮のシカゴ響盤(1959年録音)、
そして、シャルル・デュトワ指揮のモントリオール響盤(1982年録音)、この3つです。
CDをとっかえひっかえ聴いてみますとですね、
確かにナイチンゲールくんは全く違う啼き方をしているのですよ!
こんなことで「おお!」と思うことでもないんですけどね・・・。
トスカニーニ盤では、ツピツピチュウチュウといささか騒がし気。
しかも、1953年当時の技術的なものなのか、あんまり気に掛けてない大らかさなのか、
ツピツピチュウチュウの啼き方がはっきりしている分、
録音テープが短くって何度も繰り返し再生されているのがありあり。
ライナー盤の方は、実に多彩な啼き方をするナイチンゲールでして、
演奏の邪魔にもならない奥ゆかしげなところに好感が持て、
三種の中ではいちばんマッチしているように思われました。
それに対してデュトワ盤はといえば、ツピピピピピッと息の長い啼き声です。
これなら、反復再生してもそのこと自体はあんまり気にならないかもしれませんけれど、
少々変化にとぼしいような気はします。
クラシックの演奏の場合(CDでもですが)、
同じ曲であってもアナリーゼの違いが演奏に現れる効果なんかを聴き比べる楽しみがありますけれど、
よもや「ローマの松」にこんなお楽しみ(?!)が隠されていようとは思いも寄りませんでした。
皆さまも、ぜひお試しになられてはいかがでしょうか。


