21世紀の現在でも相変らずとまでは思わないのですけれど、
どうやらイギリスの上流階級の紳士にとっては
「ものを知らないことが美徳」という考え方があったそうで。
ただ、さすがに愚者では社交界で通用しないでしょうから、
いわゆる薀蓄めいたことをあんまり知っている必要がない、
必要に応じてもの知り執事に聞けばことは足りるわけで、
「君の使用人は、よくものを知っとるね!」
かなんか言われると雇っている本人に対する褒め言葉になった・・・なんつうことでしょうか。
ところで、そのイギリス上流階級の頂点にいるのが、王家ということになりますね。
いわゆる知識を蓄えるための読書などする必要がないということから(?)、
エリザベス二世女王陛下は、本を読むなんつうことを考えてみたこともないようで。
むしろ小説なんかを読んでしまって、それが作者の世の中を見る「ひとつの意見」であることを忘れ、
この世の真実みたいに思ってしまったら、広くあまねく国民に対するにあたって、
見方考え方に偏りが出る・・・てな発想でもあるようですが。
その女王陛下がひょんなことから一冊の書物を手にとり、厨房の雑役をこなす少年のガイドを得て、
読書の深みにはまり込んで行くという。
もはや公務はうわの空、どこに出向くにも本を携えてという極端ぶり。
先の厨房の少年は早速に女王陛下付きに抜擢され(いかにも女王ならではの人事!)、
これに業を煮やした侍従長は、「公務失念の原因はお前か」とばかりに少年を体よく追い払ってしまいます。
もはや少年のガイドを必要としなくなるほど読書巧者になっていた女王は淋しく思うものの、
さほど気にとめることもなかったのですが、後から事実を知って、
少年を追い払ったことよりも、自分に隠して行ったことに腹をたて、
侍従長を更迭(これまた女王ならでは!)してしまうのですね。
このあたりは多分に茶化しも入っているのでしょうけれど、
イギリスの王室あしらいは伝統的なものでしょうからね。
ところで、読書の妙味を味わいつくした女王陛下は齢八十の誕生パーティーの席上、
ある決意を表明することになりますが、これは読んでのお楽しみ!
一般人なら学校教育のようなものを通じても、
「読書」の習慣(長続きするかどうかは別ですが)が養われていくのでしょうけれど、
そこはそれ一般人とは違う存在の方、つまり読書の習慣などのない人を通して、
「読むこと」を考える機会ともなる一冊なのでありました。
オリジナル・タイトル「The uncommon reader」は、
ヴァージニア・ウルフの評論「一般読者(The common reader)」のもじりであるとか。
邦題の「やんごとなき読者」ともども、なかなか捻りが効いているではありませんか。
