ミステリーを読んだのは、ひさしぶりです。
 何故これか?と言えば、ひとえに「岩波書店で出した推理小説かあ・・・」という
 もの珍しさだったかもしれません。

リヴァイアサン号殺人事件―ファンドーリンの捜査ファイル/岩波書店

 ただ珍しいのはそれだけでなくって、
 作者がロシア人だということ。ロシアのミステリーって、あまり聞かないような。

 さらには、作者の「ボリス・アクーニン」というペン・ネームは
 日本語の「悪人」から来ているという…
 なんでも三島由紀夫の露語訳もされているという日本通らしいです。

 ですから、時代背景が1878年(ということは明治10年ですか)で、
 国際航路の客船の中で展開する話に、青野銀太郎という士族が出てきたりします。

 そこで、探偵役として活躍するのがエラスト・ペトローヴィチ・ファンドーリン。
 「ファンドーリンの捜査ファイル」と言われる由縁ですね。
 この探偵役のプロフィールはというと、
モスクワ生まれの美青年。19歳で天涯孤独の身となり、モスクワ警察の特捜部に奉職、以降、転生の推理分析力と抜群の身体能力、勇気溢れる行動力に、「一度も賭けに負けたことがない」不思議な強運も手伝って、難事件を次々に解決していく。つねに最新流行のファッションに身を包み、物腰は紳士的ではにかみ屋、美しい女性にはめっぽう弱い。云々
 とまあ、紹介するだけで恥ずかしく!なる主人公なわけです。
 
 あの高村薫さんが(といって、全く読んだことないですが)
 「欠けているものは何もない優雅なグランド・ミステリー」と評されているようなのですが・・・

 物語そのものよりも、小説としての作りが面白かったように思えました。
 つまり、事件を語る視点が複数人いて、代わる代わる進展を語っていくという。
 それも、ある人は手紙として、ある人は日記として語るというようなこともあって。

 ロシア人の作者自らが
 「・・・ロシアの作家となると、名前も耳障りだけれど、だれがだれやらまったくわからないので、
 会話に入り込むこともできない・・・」
 と言ってしまうような、ユーモア感覚と併せて、
 これも作者自身の語りの巧さというところなのでしょうね。