いやはや我ながら読書傾向は節操がない…と感じておりますけれど、

こたびは島本理生さんの「波打ち際の蛍」を読んでおりました。


島本理生「波打ち際の蛍」

ひとえに、阿刀田高さんの書評を見て、ぴくっとしたことによるわけですが、こんな一文です。


この作品の一番の長所は作者の筆さばきだろう。複雑な心理のあやを文章のあやに乗せて巧みに綴っている。

「どれどれ」と、つい手にしてみたくなったというわけなのですね。


阿刀田さんが同時に言っているように「紛れもない恋愛小説」であって、

特段大きなストーリー展開があるわけではなく、むしろ淡々と進むわけです。

それは、ドラマがこの小説の始まる以前にあるから…なのですね。


かつての恋人に暴力をふるわれ、PTSDとも思しき心の傷をかかえたヒロイン。

「相談室」なるところへカウンセリングに通う中で、ひとりの男性と出会います。

徐々に惹かれていくことを意識しながらも、どうしてもあと一歩が踏み出せない。

ヒロインのそんな揺らぎが描かれます。


こういう話を読みながら思うことは、周囲の接し方の難しさではないかと。

ヒロインの母親の様子には、ときおりイラっとしてしまうところがあるのですけれど、

これは客観的に引いて見ているからで、いざ当事者であったなら、

言ってしまう言葉、やってしまう態度であるかもしれんなぁ…と。


心の病というものが、従来の思い込みを遥かに上回って身近なものとなっている昨今、

本編のヒロインとは異なる、別の要因によって生じたものであったとしても、

周囲に、そして我が身にさえ起こり得るかもしれないと

考えてみる想像力は必要だな…と思うのでありました。


ということで、阿刀田さんが評したような小説自体の話からずれてしまいましたね。