展覧会に行って、油彩、水彩、版画などの作品があれこれ展示してありますと、
ついつい油彩を中心に見てしまい、水彩やとりわけ版画の類いはささっと通り過ぎてしまったり。
個人的な好みの問題ですけれど、筆の跡が生々しく盛り上がって残っていたりというのが好きなものですから、
比較して平板な水彩(ワイエス は別格ですが)、版画はついついおざなりな見方になってしまいます。
ところが、版画は版画で実は大変に魅力的だということに気づいてはいるのですね。
ですから、版画ばかりを集めた展覧会であれば当たり前ですが、じっくり拝見!させていただくわけです。
ということで行ってきましたのが、八王子夢美術館で開催中の「いとも美しき西洋版画の世界」展です。
ヨーロッパ版画というのは1400年前後に生まれたということですけれど、
これはとりもなおさず、中国で紙が発明!され、これが欧州に伝播した賜物だそうなのですね。
まずは、マルティン・ションガウアーやメッケネムという職人たちが活躍を始め、
やがて画家(これも当初は、いわゆる職人ですが)たちが表現の一手法として
取り組んでいくことになるわけですね。
比較的初期になるのかもしれませんが、デューラーの「聖母子と王冠を捧げる二人の天使」(1518年)などは、それまでのどの作品よりも、ふくよかさが実に魅力的です。
そして、見逃せない一品が、ヘンドリック・ホルツィウスの「羊飼いの礼拝」(1600年頃)ですね。
画面左下から中央にかけて、未完成と思しき白地が大きくありますけれど、
むしろ蝋燭の灯りをかざすまでもなく、礼拝の対象が神々しい光を放っていることを示すようで、
これ以上どうする?!というくらい。
言わば、シューベルトの未完成交響楽 に、変に付け加えるとバランスくずれてぶち壊しというような…。
このほかにも、ブリューゲル原画によるSF的作品(?)の数々や、
元来天井画を想定しただけに見上げる構図を取っているルーベンスの「聖カタリナ」(1620年頃)、
レンブラントの「キリストの磔刑」(1641年頃)に見る「なるほど!」の陰影の妙などは、
なかなかの見ものなのですね。
風景を写したものとなると、それぞれ細密さが特長で、
ジャック・カロの「ルーヴル宮の眺め」(1630年頃)では、昔のセーヌ 沿いに様子に「ふ~む」と思い、
イタリアではカナレットのヴェドゥータ 同様に、旅の記念としての絵ハガキ的人気を博したという
ジョヴァンニ・バッティスタ・ピラネージの作品には、「なるほどね」と思うわけです。
ピラネージの、この「マルケレス劇場」(1740-60年頃)などの作品は、
ピラネージが自分で店を構え、ローマの新旧名所を版画作品として販売していたといいますから、
まるっきり旅の土産というところですよね。
その後の時代でも近現代に至るまで、こんな画家たちの版画作品もあるんだなあ…というのが、続々。
それこそ、ぞくぞくものなのですね。
「15世紀のデューラーから20世紀のピカソまで」という展覧会の謳い文句そのままです。
さほど大きな美術館ではないのに、版画故にサイズは小さめ。
それだけに、もうお腹いっぱいになってしまいます。
「版画と言えば」というビアズリーの「サロメ」もお見逃しなく!


