もちろん人によりけりだとは思うのですけれど、

何らかの作品が残されるにあたって、

晩年の作品だったりするものはとかく深い精神性を湛えるような世界に入り込んで、

「うむぅ、む・ず・か・し・い・・・」と思われることがあったりします。

例えば、ベートーヴェン後期の弦楽四重奏曲とかピアノ・ソナタなぞはもはや近づくこともできない。

(と、思ってしまっているので、近づいてさえいない・・・)


逆に若い頃の作品は、若書き故の気負いから晦渋なものがあったりしますけれど、

それなりの溌剌さが感じられたりすることがありますよね。


では、ラヴェルの場合、「ボレロ」という超有名な曲はいったいいつ頃の作品なんでしょう。

同じフレーズを延々と繰り返し、楽器の種類を変えることとひたすら漸増する音量によって

耳をそばだたせよう、聴衆の興味をひっぱり続けようという実験的な試みは

若さ故の才気の現れのように思いこんでいたのでした。


ところが、これが何と最晩年の曲ともいうべき時期に書かれたとは!

時にラヴェル、53歳。


ラヴェルは62歳で亡くなりますから、残り9年。

でも、ボレロ以降は、「左手のためのピアノ協奏曲」と「ピアノ協奏曲」、

そして「ドゥルシネア姫に心を寄せるドン・キホーテ」という3曲からなる歌曲集しか残しておらず、

脳疾患に苛まれ、最後の4~5年は曲作りはおろか、字を書くことさえできなったのだそうです。

ジャン・エシュノーズ「ラヴェル」


先に「ダフニスとクロエ」 を読み、ラヴェルの音楽を聴いたあと、

たまたまラヴェルの晩年、10年間を描いた小説があると知って

読んでみたが、ジャン・エシュノーズの「ラヴェル」でした。


小説の中味自体のことはさておくとしても、

(といっても、フランスでモーリアック賞を受賞したものですから、さておいてしまうのは失礼ですが)

ラヴェルの人となりといいますか、人間らしさといいますか、

(厳然とした芸術家でもなければ、聖人君子でもない・・・)

そんな様子がほのぼの浮かび上がって、

最後の亡くなる場面などは、それなりに感に堪えない印象が残ります。


エピソードもふんだんにあるのは楽しめるところでもありますが、

例えば先の「ボレロ」の演奏に関して、ラヴェルがトスカニーニに「(演奏速度が)速すぎる!」とクレームをつける場面が出てきます。


トスカニーニが録音で残したNBC響との演奏(トロンボーンが下手で有名な録音、笑えます)では、

14分16秒で全曲を演奏いるのですけれど、

ものの本によると、ラヴェル自身は17分の演奏時間を要求していることが

残された手紙で分かっているようですから、確かに速い!


ただ、トスカニーニも大した度胸で、作曲者ラヴェル大先生に向かって、

「そういう風に演奏しないと、この曲は聴けたもんじゃない!」と言ったとか。

実は、ラヴェル自身の録音というのも残っていて、それが15分30秒だというのですから、

軍配が上がるのは、むしろトスカニーニの方でしょうか・・・


ちなみに手近にあるものでは、マルティノン盤で14分56秒、デュトワ盤で15分08秒。

トスカニーニほど速くはないものの、たぶん17分で演奏したら遅く感じるでしょうねえ。


さて、みなさんお好みのボレロは、どのくらいのテンポでしょうか。