いくら時計に目をやったところで、時が止まるわけじゃない。

そんなわかりきったことに抗うことができるかもしれないと、

僕は君に悟られないようにしながら、何度も腕時計を盗み見ていた。


情け容赦なく時は刻まれ、君の乗る列車はもうまもなくやってくるだろう。

そして、いつの間に降り出したのか、雪のひとひらふたひらが僕たちをとりまいていた。


「東京で見る雪は、これが最後ね」


君が振り向きざまに、陰りを帯びた笑みとともにポツリとつぶやいた。

君と何度か過ごしためぐる季節。

東京では少なくなった雪も、二人で過ごす日々の中ではむしろ温もりにすら感じていた頃もあったと、

僕は思い返さずにはいられないのであった。

そして、今このときになって、二人にとって最後の春がやってきたというときになって、

「きれいになったね」

君に向かって、僕はそう呟きそうになるのを抑えるのに精いっぱいであった。


やがて、列車の窓ガラスの向こうに行ってしまった君が何か言いかけたように見えたけれど、

僕は降りかかる雪を払うふりをして、君の言葉を、君の最後の言葉を拒んでしまった。

君のくちびるが「さようなら」と動くのが怖かったから。


君と過ごした日々が走馬灯のようによぎっていく。

「あの頃は二人とも幼かったよね」

でも、すっかり大人になった僕らに訪れたのは別れの春だったんだね。


君を乗せた列車は去っていった。

一人残されたホームには、季節はずれの雪が吸い込まれるように落ちては消えていった。

「きみは本当にきれいになったね」

とうとう言えなかったひと言も、春の淡雪と一緒にホームに吸い込まれていった。

「去年よりもずっときれいになった」

このひと言を伝えられる瞬間は、これまでは数えきれないほどあったのに。

もう君はいない・・・。




いったいこれは何の話だと思われる方もおいでだろうと思いますけれど、

昨日、帰宅してTVをつけたら、何かの特番の中で、イルカの「なごり雪」のVTRを流しているのでした。

お読みいただいた方の中には、歌詞をそのまま引用したあたりで、

「なぁんだ」と思われた方もおいででしょう。


久しぶりに耳にした「なごり雪」に、いまさらながらこれって男の歌だったんだって思ったんですね。

そしたら、文章にしたらどんな具合かなと・・・。

ちいとも推敲してないので、こなれは悪いですが、

もしも「なごり雪」の世界がイメージできたなら幸いでございます。