地中海―人と町の肖像 (岩波新書)/樺山 紘一
ギリシャ世界 やらバルカン半島 やらに興味の矛先を向けていれば

当然のようにたどりつくのが地中海なわけでして、

文字通り「地中海」という岩波新書を読んでみました。


地中海を取り巻くあれこれを6つのキーワードを付けた章に立て、

それぞれの章では二人の人物を通して、

大きな「地中海」をぼやぁっと浮かび上がらせるという仕立てなのですね。

それぞれのキーワードと、取り上げられた人物はこんな具合です。


  1. 歴史:ヘロドトスとイブン・ハルドゥーン
  2. 科学:アルキメデスとプトレマイオス
  3. 聖者:聖アントニウスと聖ヒエロニムス
  4. 真理:イブン・ルシュドとマイモニデス
  5. 予言:ヨアキムとノストラダムス
  6. 景観:カナレットとピラネージ

歴史的に馴染みのある名前もあれば、初めて聞いた名前も。

そんな中で、イスラム世界の人物が二人取り上げられていますね。

「まあ、オスマン・トルコもヨーロッパといえばヨーロッパかな」

というふうにはすぐ思いつくわけですけれど、

落ち着いて考えてみれば、地中海は何も欧州のものではないわけで、

南側はアフリカ大陸なのですよね。


でもって、イスラム世界の人物というと「アラビアあたりにいたのではなかろうか」

と思ってしまいますが、実はここで取り上げられている二人の人物は、

いずれもアフリカ北岸、マグレブ地方(現在のチュニジアからモロッコにかけてのあたり)の人なのでした。


小アジアから、パレスティナ、そしてエジプトから西へアフリカ北岸をうすぅく海岸線に沿うエリアも、

思い返せばイスラム世界であったことが歴史の本には出ていましたから

イスラムの人がみんなアラビアにいるわけではない、これは当たり前なのでした。


これと同じような思い込みは、アルキメデスにもありました。

言うまでもなく、ギリシャの人であって、これ自体は思いこみではないのですけれど、

シチリア島の出身と聞いては、「え、イタリア人だったの?」と思ったりしたわけです。


当時(紀元前三世紀頃)は、古代ローマも共和政の時代だったわけで、

むしろ地中海世界は古代ギリシャの天下だったのでしょう。

シチリア島もギリシャの植民市ですから、アルキメデスはやっぱりギリシャ人なのですね。

しかも、エジプトのアレクサンドリア(後にクレオパトラも誇りにしていた大図書館がある)で

エウクレイデス(ユークリッド)の数学・幾何学に感化されたというのですから、

古代人もかなり広い世界を生きていたのだなと思うのでありました。