スティーヴン・ミルハウザーの「ナイフ投げ師」という短編集です。
なにしろ訳者の柴田元幸さん自身、訳者あとがきでこんなふうに書いています。
ミルハウザーを好きになることは、吸血鬼に噛まれることに似ていて、いったんその魔法に感染してしまったら、健康を取り戻すことは不可能に近い。
とまあ、こんな具合です。
柴田元幸さんの訳書ということで思い出すのは、ポール・オースター。
ミルハウザーとは全く作風は違うものですけれど、くせになる感じは共通かもしれません。
それにしても、ミルハウザーのこの短編集は、こういう小説、というか物語ってありかな…
と思うのですね。
ストーリー的に面白いものも、それはそれで良いとは思いますが、
小説は描写で語ることこそ!といった気がしないではないだけに、
妙に説明されてしまうストーリーというのは、「小説なの?」と思ってしまうわけです。
ところが、ミルハウザーはこれを逆手に取るように、全編、説明で終始したりします。
恰も新聞、ないしは週刊誌の解説記事を読むようでもあります。
ですから、ともすると「ダラダラ説明しやがって、で、話はどう展開するわけ?!」
などと受け止めてしまいそうになるのですけれど、
そもそもプロットが秀逸ですから、不思議と取り込まれてしまうのですね。
まさに、柴田さんの発言どおりかもしれません。
「協会の夢」なる、百貨店の(とんでもない)理想形を描いた作品、
「パラダイス・パーク」という究極の遊園地の盛衰、
なんのためにあるのかわからないけれど、地下にはりめぐらされた通路にこだわり続ける人々を描いた「私たちの町の地下室の下」。
みな、奇想天外ではないものの、思いもよらぬプロットです。
また、予想外のことが思いもかけず自然に受け止められてしますお話のたぐい。
しばらくぶりに届いた手紙で友人が結婚したことを知り、訪ねてみると奥さんはカエルだったとか、
父親が子供に「ほらよ」という感じで与えたものが「空飛ぶ絨毯」であったとか・・・
とまあ、断片的に紹介をしても「なに?」という感じでしょうから、
「協会の夢」や「パラダイス・パーク」だけでも目を通してみていただけると、
ミルハウザーのワンダー・ワールドが垣間見えるのではないですかね。
