実は「ラファエル前派」にはうむぅ・・・と眉間にしわが寄ってしまう(大袈裟ですが)ものですから、

行こうかどうしようかと思っていたのが,、この「ミレイ」展です。


「ジョン・エヴァレット・ミレイ」展

それでも、日本で初めての本格的回顧展であることと、

初日に早速行ってこられた方の記事を拝見して、

「こりゃやはり行っておかねばな」と思ったのでありました。


行ってきた感想を率直に申し上げますと、

「行かなくては!」と思わせてくれた方に心から感謝したいと思ったわけです。


「ラファエル前派」は云々と言った矢先に、まさに手のひら返しですけれど、

食わず嫌いには「正解」もあれば「誤解」もあるということでしょうか。

この際ですから、「ラファエル前派」はうむぅ…でなくして、ロセッティはうむぅ…と言い換えておきましょう。

とまあ、戯れ発言はこれくらいにしておいて、さて褒め言葉に移行するといたしましょうか。


欧州の文化的な位置づけにおいて、音楽や美術の世界ではあまり英国はパッとしません。

音楽など、ヘンリー・パーセル(1659-1695)以来、

エドワード・エルガー(1857-1934)が登場するまで「鳴かず飛ばず」と言われていますし、

美術の方でも、ターナーやコンスタブル、ゲインズボロなど有名どころは数えるほどではないかと。


それに比べて、英国が誇れるものは文学の分野。

シェイクスピアの世界は、さまざまな芸術分野に

ギリシャ・ローマ神話、聖書と肩を並べるほどの引用されたり、霊感を与えたりしていますし、

詩作においても、ワーズワース、キース、ブラウニング、シェリー、テニスン、バイロン、スペンサー…と百花繚乱なわけです。


このようなイギリス文学の世界にインスパイアされた作品をたくさん描いたのが、

今回の回顧展で約80点もの作品が展示されている、

ジョン・エヴァレット・ミレイなのですね。


本展の目玉はなんといっても「オフィーリア」(上のチラシの絵)で、これは言うまでもなくシェイクスピアの「ハムレット」に登場する悲劇のヒロインですけれど、もうひとつ誰しも目が釘付けになるであろう「マリアナ」も、やはりシェイクスピアの「尺には尺を」から着想したテニスンの詩「マリアナ」によるものということです。


ミレイ「マリアナ」

解説によれば、幽閉されたマリアナの孤独な気持ちと同時に性的閉塞感といったものも表現されているそうなのですけれど、表面的な見方になりますが、色彩の鮮やかさとともに、

不自然さの感じない立ち居振る舞いだけでも十分に目を奪うものではあります。


これは、文学から影響を受けた絵画というわけなのですが、

一方で、非常に物語性を孕んだ絵画というのも非常に多く見られました。

例えば、この「北西航路」はどうでしょう。


ミレイ「北西航路」

北西航路というのは、北米をまわって太平洋に至る航路のことのようですけれど、あくまで船乗りであり、探検家たらんとする老父の船出の決意に対して、不安と動揺を隠せない娘の姿が描き出されています。


娘を残して旅立った老父の物語、老父が果敢に厳しい航路に立ち向って行ってしまう娘の物語が、それぞれに浮かんでくるようです。


このようなミレイに特徴的なのが、作品に対するタイトルの付け方ではないでしょうか。

ミレイ自身がこんなことを言っています。

タイトルを見つけるのは、絵を描くのと同じくらい骨が折れるし、同じくらい時間もかかる

ミレイ「ハートは切り札」

この三人の若い女性を描いた作品のタイトルは「ハートは切り札」というものですけれど、

さて三姉妹のうちで、誰が一番先に殿方のハートを射とめるのか。

これをカード・ゲームに託して、静かに潜行する女の闘いを表すには、粋なタイトルなのではないでしょうか。


とまあ、目に止まった絵を挙げていてはキリがないわけでして、図録の購入にはいつも熟慮するわりにはあっさり買ってきてしまったという、この展覧会。見るべきものがこれほど多いとは、それこそ嬉しい誤算とも思えるものなのでありました。