かつて絵画には、文字を読めない人々に対する記号の役割をはたしていたわけで、

絵を見れば、それが何を表したものなのかを庶民でも読み説ける時代があったのですね。


それが今では、むしろ絵の中に込められた記号の意味をたどる方が

(読み書きができるできないよりも)高尚な?ことになってしまって、

本展のような「静物画の秘密」といったタイトルの展覧会が開かれるわけです。


目に映ったものをそのままに、「う~ん、よく描けた魚だ」とか「きれいに描けた花だね」と見ることが

何もいけないことではないのですけれど、

どうしても作者が「なぜこれをこのように描いたのか」ということを考え始めますと、

記号の意味を避けて通るわけにはいかなくなることになります。


アントニオ・デ・ペレダ「ヴァニタス」

これは、本展の目玉のひとつと思しき、アントニオ・デ・ペレダの「ヴァニタス」(1634年頃)ですけれど、

真ん中の天使(羽が生えてますから)が抱える地球儀に乗ったカメオは、

時の神聖ローマ皇帝カール6世の肖像で、これが地球儀に乗っていることから

全世界を支配していることを示していると言います。


これに対して、時計も火の消えた蠟燭も時の移ろいを示していますし、骸骨はそのものズバリで、

全ては「驕れるものも久しからず」と言ったことを表現しているのですね。


うむ、良く描けた骸骨だな・・・というふうに見て悪いことはありませんけれど、

記号の意味を知ることで理解が深まるのは間違いなさそうです。


ヤン・ブリューゲル「青い花瓶の花束」
これは、花のブリューゲルと言われた、

ヤン・ブリューゲルの「青い花瓶の花束」(1608年頃)です。


こうした絵は、写実的に只管リアルに描かれたようでいて、

実際は同じ季節に咲くわけのない花が混在していると言います。


色合い、バランスなどどうしたら美しくなるかを追求していけば、現実以上のものを求めてしまうことにもなるのでしょう。


画家たちがもっときれいに、もっと彩り豊かにと望んだことが草花の品種改良という技術を

進歩させることにもなったのだそうです。


これまで積極的に静物画を見ようということはなかったのですけれど、

そこに秘められたあれこれに思いを馳せるとすれば、

それはそれで難解なパズルを解くようなものがあるかもしれません。


その点、あえて音楽で言うならば、

弦楽四重奏の渋み、深みということにでもなりましょうかね。