宮下規久朗「食べる西洋美術史」(光文社新書)
「食べる」ということと西洋美術史がどう絡むのかという

興味本位で手に取った一冊でした。


元来、絵画の世界で「食べる」ことそのものに主眼を置いた作品は

なかったのだと言います。

例えば、ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」のように食事風景を描いたと思しきものも

キリスト教の教義に深く根ざしたものだと言います。


食事風景を描いたものであっても、

飲食の対象は、パンであり、ワインであると。

パンは聖体拝受で受ける、主の体であり、

ワインは主の血液なわけです。


そして、付け加わるものとして、魚はOKだけれど、肉はダメだと。

もともとイエスは船大工なわけですし、使徒たちもガリラヤ湖の漁師だったりすることもあって(?)

魚は良し!と。

かわいそうなのは、肉。飽食の象徴のように言われているのですね。


という、キリスト教のしばりから抜け出すのが、フランドル絵画です。

最初は、あくまでキリスト教の教訓をタイトルにつけていながら、

画面いっぱいに飲食物を描くことを始めたそうです。


「二重空間」という手法で、画面の一部に窓のようなものをあけ、

その窓から見える奥の間に、例えば「マルタとマリアの家のキリスト」を描いて、

表向き宗教画としながら、実は前面の大きな部分いっぱいに厨房風景として

山のような飲食物が描かれるという・・・


アールツェン「マルタとマリアの家のキリスト」

これが、飲食物を描く静物画の元になっていくのだということですけれど、

左下すみに追いやられた部分で、これをもはや宗教画とは言わないですよね。


本書には、そのほかにも「食」にまつわる絵画の話がたくさん。

一度だけで読んだことにしてしまうのは、もったいない・・・かなという気もしますね。