「オペラ偏愛主義」を見ている こともあって、
久し振りに島田作品を手に取ってみました。
「ドンナ・アンナ」という短編集です。
何を読もうかと思ったときに決め手となったのは
やはり「オペラ絡みで読もうと思ったのだから」と
モーツァルトの「ドン・ジョヴァンニ」に出てくるキャラの一人、
ドンナ・アンナがタイトルとなっているからなわけです。
小説の中で、ドンナ・アンナはソプラノのオペラ歌手という役回り。
表面上はやはり、モーツァルトの「ドン・ジョヴァンニ」の登場人物の
仮託と言えないでもないわけですが、
彼女のふるまいたるや、
(文中にも確かにあるように)女ドン・ファン(=ドン・ジョヴァンニ)
なのですね。
オペラ歌手は、さまざまな女性の役どころになりきらなくてはならない。
だから、たくさん恋をして・・・という、訳の分かったような、分からないような理屈の元に、ドン・ジョヴァンニさながらの異性遍歴があったことになっています。
そこへ現れるのは、「ハッピィ・プリンス」なる青年。
だいたいハッピィ・プリンスというネーミング自体が「馬鹿にしてるよなぁ」と思いませんか。
ということで、この二人が島田作品にありがちな痴戯を展開するわけですけれど、
途中でこんな記述があります。
アンナの声は若い頃に較べると、金属質に響く高音の切れ味がなくなったが、代わりに低音部で男性の下半身をモヤモヤさせるような歌い方ができるようになった。これは殆ど凶器である。
この部分は、まるでマリア・カラスのことを言っているかのようなのですね。
カラスも(本作のドンナ・アンナのようではなかったにせよ)恋多き女性だったようですし、
それが役作りに活きていたのだと言われたとすれば、なるほどと思ってしまいますしね。
ちょぉっとこざかしいといえば、言えなくもない作りになっていますけれど、
確実に作家・島田雅彦の、潜在的力量が偲ばれる作品ではあろうと思うのでした。
本書に所載された他の三作、「観光客」「聖アカヒト伝」「ある解剖学者の話」とともに、
それぞれ島田さんらしいストーリー・テリングが味わえるものではないでしょうか。
