さて、ブリュッセルのメイン・イベント、ベルギー王立美術館 です。
 
昨年の暮れ、上野の西洋美術館で開催されていた「ベルギー王立美術館展」を見たのが、
今回の旅の発端みたいなものですから、まさしくメイン・イベントなわけです。

ところが、いささか残念なことには、9月から開催されるという「大ルーベンス展」と
来年館内にオープンするというマグリット美術館の準備の関係からか、
古典、近代ともに縮小された展示となっていました。

しかしながら、縮小されてはいても、実に見応え十分。
見ていくうちに、だんだんとチラ見状態になってしまいましたが、
それでもゆうに3時間余りをかけて、堪能してきたのでした。

ここに来るまでに、いろんな興味繋がりの関係から美術書を読んだりもしたおかげか、
宗教画を見る勘どころのようなものも多少頭に入ってきていて、それがための面白さを感じたりもするのでした。
でも、やっぱりパパ・ブリューゲルが一番かなと。息子ブリューゲルとは違うスケール感があります。

パパ・ブリューゲル「ベツレヘムの戸籍調査」

 これは「ベツレヘムの戸籍調査」という絵ですけれど、
 同じ部屋ではパパ・ブリューゲルの「幼児虐殺」と
それを息子ブリューゲルが模写したものが見比べられますが、差は歴然。
 こうも違うかなぁと。

 「幼児虐待」というのは、「ユダヤの王」誕生の預言の実現を怖れたヘロデ王が
2歳以下の男の子を見境なく殺してしまうよう命ずるのですが、
 イエスはエジプトに逃れて難を避けるという有名な話ですね。
 
実に殺伐として、深刻なテーマなわけです。
これをパパ・ブリューゲルが(「ベツレヘムの戸籍調査」にも似た)暗めの色調で描くのに対して、
子供ブリューゲルのオレンジがかった色味は中世の収穫を祝う祭りのようにさえ、
一見してしまうわけです。

こうした、パパ・ブリューゲル作品の多くは、
ハプスブルク家によってウィーンの美術史博物館にもっていかれてしまいますので、
ここで見られるのがほんの数点とは残念ですが…。

近代の方では、超有名な画家たちの作品もコレクションとしてあるのですけれど、
先に「国立ロシア美術館展」を東京都美術館で見たときに感じたように、
思った以上にその国オリジナルの画家(つまりベルギーの画家)たちを
知らないものだなと改めて感じたのでした。

昔々のファン・エイクやブリューゲル、現代に近づいてのデルヴォーやマグリットは知っていても、
それらの間に横たわるながぁい期間を繋ぐベルギーの画家たちがいないはずはありません。
これはモネっぽいなとか、セザンヌに似てるなとか、シニャックそっくりといった絵を描いた
(つまりはこれらの有名な画家たちと同じ時代を生きた)ベルギーの画家たちがたくさんいるわけです。
その中で、エミール・クラウスという、あまり知らない画家は、かなり注目かなと思ったのでした。

エミール・クラウス「リス河を渡る雌牛」

上の絵は一見して牛を描いた絵なわけで、
昨年の西洋美術館でもエミール・クラウスは牛の絵(「陽光降り注ぐ小道」)で紹介されていました。

が、そのとき同時に展示されていた「太陽と雨のウォータールー橋」を見たら、
クロード・モネを思い浮かべるでしょう。
それでもあんまりピンと来ないとしたならば、
積み藁を描いた絵を見れば「なるほど!」ではないかと…。

画風は典型的な印象派で、
印象派大好きな日本人にあって、もしかして知らなかったのは自分だけ?
ところが、ミュージアム・ショップで買った解説書によれば、
「ターナーとモネの追随者」だがそれだけ!みたいな言われ方では、少々かわいそうかもしれません。

ともかく、もっとゆったり噛み締めるように見ていっても良かったかなと思うのでした。
こういうところが、近所にあればねえ・・・というのは、無いものねだりです・・・ね。