リアルタイムで売れている本を読むのは珍しいのですけれど、
「名画の言い分」と聞いて、「言い分とやらを聴いてみましょうかね」と思ったのですね。
そんな気軽な感じで手に取りましたけれど、冒頭から一刀両断にされた思いです。
即ち「はじめに」に曰く・・・
現代の日本では、やたら「感性で美術を見る」-好きか嫌いか、感動するかしないか、といった尺度で見る-などといいますが、感性で近代以前の近代以前の西洋美術を見ることなど不可能です。
・・・と言われてしまいました。
これは何故なんでしょう。「はじめに」の続きでは・・・
そもそも画家が自由に自分の好きな絵を描くようになったのは、18世紀以降のこと。それ以前の作品は、古代ギリシアに遡るまで、ある一定のメッセージを伝えるものでした。そこには明確な意図が内在しているのです。西洋美術史とは、それらのメッセージや意図を正確に読み解いたうえで、その作品のもつ世界を十分に味わうことにほかなりません。
・・・ということです。
うんうん、なるほどではありますが、どうも何だか説教臭さが感じられなくもないわけです。
「どのみち西洋美術史家でもないし」とか「好き嫌いで見るのは勝手だけんね」と
開き直るつもりはありませんけれど、
最初から「教養が必要なんですよ」と言われてもなあ・・・というのが、正直なところです。
世の中に美術愛好家が多いのは、大きな展覧会に行ってみれば、よぉく分かりますよね。混んでますから。
でもって、そこにいる多くの人たちのうち、
どれほどが「西洋美術史的教養」でもって武装してきているのかは知る由もありませんが、
裏返しに言うと、著者の木村さんがあちこちの講演会やセミナーにお呼ばれしたり、
まさに本書のような本が売れるということ自体、知的武装できてない人が多いんではと思ったりするんですね。
そして、「知的武装できてないといけないんじゃないか」と思う人が多いということなんじゃないかなと。
武装、武装と言いましたけれど、行き先は戦場でなくって展覧会ですので、
個人的には、それこそ個人的楽しみを得に行っているわけです。
知らないことは山のようにありますが、それなりの楽しみ方はできてると思っているわけでして・・・
ですから、前もって「これも、あれも知ってなきゃ、いけんよ!」と言われてもねえと思うんですね。
見る前に読むか、読む前に見るかみたいなので言ったら、後者を選択しているのですけれど、
実際先に絵を見て、興味が湧いてくると本を読んだりして結果的に知識が付いてくるような感じでしょうか。
「まえがき」に絡んで、ああだこうだと言いましたけれど、「こうでなきゃいかん」みたいなことは置いておくとして、
本書の中でその後に展開される「名画の言い分」は、あれこれ興味深いものでありました。
以下、また備忘録的にメモをしておこうかなと。
(でも、美術館に行かない人が「行ってみようかな」と思い立って、
本書を手にしたら「はじめに」ですでに挫折感を味わったりして…)
- (アルカイック・スマイルの)謎めいた静謐な微笑みには、なにやら深遠な意味が隠されているような気がいたします。けれど実際は、息をしている人間である、生きている人間である、ということを表現しているだけなのです。
- 12~13世紀に、マリア信仰とゴシック様式が相まって、いわゆるノートル・ダム大聖堂が各地に建てられていきました。パリのノートル・ダム、シャルトルのノートル・ダム、ランスのノートル・ダムなど、フランス王家はゴシックの大聖堂建立にあたり、莫大な資金を出すなどの支援を惜しみませんでした。ゴシック様式は、いわば政治的キャンペーンだったのです。
(自己注:奈良時代の国分寺みたいなもの・・・?)
- ブリューゲルは単に農民の風俗を描くのではなく、そこに道徳的寓意を探求していったといわれています。ブリューゲル自身が高い教養の持ち主でしたし、人文主義者の友人も多く、おまけにハプスブルク家と近い枢機卿がパトロンでした。しかし、教会のための仕事はいっさいしませんでしたし、宗教的な主題を扱うときは非常に奇妙であいまいな方法をとりました。・・・ブリューゲルの作品の奥が深いところは、つまり、どんな人が見ても、その人の解釈によってなんの無理も生じないところにあります。
- 肖像画は、単に似ているとかいないとかいう視点で楽しむものではありません。そこに描かれた権力者たちが何をメッセージとして伝えているのか、ポンパドゥール夫人はどんな女性であったか、マリー・アントワネットがどのように危機感を募らせたか、そして貴族階級の名誉心をくすぐられる気持ちや、彼らの資産状況など、肖像画からは多くのものが読みとれるのです。まさに肖像画という名の伝記そのものなのです。
- 大天使ミカエルは、最後の審判の際に、人間の魂の重さを量って天国行きか地獄行きかを決める天秤を持ちます。また、悪魔の軍団と戦う天使の軍団を率いるのもミカエルです。
大天使ガブリエルは、聖母マリアにイエスを受胎したことを知らせます。また、ムハンマドに神の言葉を伝えるなど、非常に重要な神の言葉を伝えるシーンにはたいていガブリエルが登場します。
大天使ラファエルは、病気やけがを癒す天使、巡礼者や旅人の守護天使と考えられ、旧約聖書に多く登場します。
