【本文】 『さあ、起きあがって、自分の足で立ちなさい。わたしがあなたに現れたのは、あなたがわたしに会った事と、あなたに現れて示そうとしている事とをあかしし、これを伝える務に、あなたを任じるためである。』(使徒行伝 26:16)

私は人生の極限状況に追い込まれ、神様に強く不満をぶちまけた。「... 私は今両脚が完全に壊れてこの監房でうずくまっていますし、死ぬ日までここで腐ってしまうでしょう。もう諦めてしまいました。二度と家族に会えないでしょう。私は主あなたに騙されました!」
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この頃、スー兄弟は私に脱出すべきだと、しきりに勧めてきた。私は彼が神様の声を敏感に聞いている人であることを知っていたので、彼に丁寧に答えた。「私は足が完全に壊れました。しかも私がいるところは鉄門で塞がれた独房です。歩くことさえできません。こういう状態でどうやって脱出ができまうか?先生の足は大丈夫ですから、いっそ先生が脱出したらどうですか。」
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翌朝、落胆と絶望に陥っている私に主がヘブライ人への手紙10章35節のお約束で力を与えてくださった。
『だから、あなたがたは自分の持っている確信を放棄してはいけない。その確信には大きな報いが伴っているのである。』
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聖書を読み続けた。

「ああ、わたしはわざわいだ。わが母よ、あなたは、なぜ、わたしを産んだのか。全国の人はわたしと争い、わたしを攻める。わたしは人に貸したこともなく、人に借りたこともないのに、皆わたしをのろう。」 (エレミヤ 15:10)

その時、聖書のお言葉がまた印刷された紙から飛び出して胸の中に飛び込むような感じを受けた。それはちょうど、全能の神様が親しく降りてきて私のすぐ前にいるような、実に神々しい気分だった。
私の心の中に溜まっていた悲しみが神の前で一気に噴出し始めた。どうしてもすすり泣きを抑えることができなかった。どうしようもないほど涙がこぼれ、両目は腫れた。

... また神の声が私の心を叩いた。今回は厳重な警告の言葉だった。
「それゆえ主はこう仰せられる、「もしあなたが帰ってくるならば、もとのようにして、わたしの前に立たせよう。もしあなたが、つまらないことを言うのをやめて、貴重なことを言うならば、わたしの口のようになる。彼らはあなたの所に帰ってくる。しかしあなたが彼らの所に帰るのではない。わたしはあなたをこの民の前に、堅固な青銅の城壁にする。彼らがあなたを攻めても、あなたに勝つことはできない。わたしがあなたと共にいて、あなたを助け、あなたを救うからであると、主は言われる。」 (エレミヤ 15:19-21)

この一節を読むや否や、驚くべき幻想が見え始めた。
妻が私の隣に座っているのが見えた。妻は先ほど刑務所から釈放されて薬を作っていた。そして、私の体の傷に丹念にその薬を塗った。元気になるのを感じながら妻に聞いた。「解放されて出てきたのですか?」妻が言った。「窓を開けたらどうですか?」妻は私に答える余裕もなく部屋を出た。それと同時に幻想も終わった。神様が私におっしゃった。「あなたが救われる時間になった。」 すぐに私は神様が脱出を敢行するように幻を見せて下さったのに気付いた。
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この時は、両足を怪我して6週程が過ぎていた。少しでも足に力を加えようとすると激しい苦痛に襲われたりした。それでも私は、神様が脱出しなければならないと三つの経路で教えて下さって、ためらう余地がないと確信した。一つ目は神様ご自身の言葉で、二つ目はこの日の朝、私が見た幻想であり、三つ目はスー兄弟を通じてだった。
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朝8時。誰が見ても一日中この時刻は脱出を試みるには一番適切ではなかった。... 私は、足を引きずりながら独房から出て、廊下の端に固く閉ざされていた鉄の門に向かって足を運んだ。ひたすら神に従うことに精神を集中した。まっすぐ前を見ながら、一歩ずつ踏み出すたびに呼吸をしながら祈った。
階段の一番上の方には、鉄の扉を開け閉めするボタンを管理する看守が座っていた。彼は自分のいる階段の反対側は見られなかった。ドアは鉄でできており、小さな窓ガラスは黒い布で覆われていた。私が鉄門に至ったその瞬間、ムシェン兄弟が自分の部屋に戻る途中で、そのため鉄門が開いていた。その朝、ムシェン兄弟は刑務所の庭を掃除するように命じられて外に出てきた。私は玄関を通りかかったばかりのムシェン兄弟に話した。「ちょっと待って!ドアを閉めないでください。」と言って。足を緩めずにそのまま鉄門を出た。神様が完璧に時を合わせてくださったのだった。

私たちが互いにすれ違ったとき彼は私にささやいた。「お立ちになるのですか。死ぬのが怖くないですか。」 彼はとても驚いた表情で自分の部屋に向かった。ムシェン兄弟が部屋に戻った時、彼を護送する守衛がいた。ところが、鉄の扉を開ける瞬間、階段の下にあるオフィスで電話が鳴ると、看守が後ろを向いて走っていったのだ。
階段の壁にほうきが一本立てられているのが見えた。私はそれを手に取り、2階まで歩き続けた。武装した守衛は2階の鉄門に向かい合って机の前に座っていた。そこには当番の看守が24時間配置されて警備に当たるため、あえて門を閉めなくても問題はないと思ったのであった。ちょうどその時、聖霊様がおっしゃった。「今行け!ペトロの神は、あなたの神だ。」

主が看守の目を隠しおられるようだった。守衛は私をまっすぐ見つめながらも、私がいることに気付かなかった。私は彼が何か言うだろうと予想していたが、彼は私が見えなくなったのかぼうっとして見ているだけだった。彼は本当に何の言葉も言わなかった。
そのまま看守を通り過ぎた私は後ろを振り向こうとしなかった。いつでも銃弾が背中に飛んでこられるような、ひやりとした状況だった。この瞬間が人生の最後になると考えながら、神様に私の魂を捧げる準備をして静かに祈った。
次々と階段を降りた。しかし、誰も私を制止しなかったし、私に話しをかける看守も全くいなかった。刑務所の庭に通じる通用口に至った私は鉄門がすでに開いているのを見つけた。普段その出入口は最も警備が厳重だった。