そんなある日、突然の来客が訪れた。ドアを開けると、そこに立っていたのは相原徹だった。

ひとみにとって大切な親友で元恋人。今はフリーランスのライターとして、海外を飛び回っているはずだった。
「ひとみ……久しぶり」
徹の声は低く、疲れていた。ひとみは無言でドアを開け、彼をリビングに通した。テーブルに座ると、徹はすぐに切り出した。
「菊地英治のこと、警察は自殺で終わらせたんだな。」
ひとみは頷くしかなかった。徹はため息をつき、鞄からファイルを取り出した。中には、英治の失踪当時の新聞記事のコピー、警察の発表資料、そして徹自身が集めたメモが挟まっていた。
「俺は、どうしても納得いかない」
徹の目は鋭かった。
「英治の性格的に自殺なんて……絶対にしない。まして、ひとみを置いて火の中に消えるなんて」
ひとみは唇を噛んだ。
「でも……警察がそう言ったし……遺体も……」
「遺体は炭化してた。DNAと歯形でしか特定できなかったんだろ?それに、内側から施錠されてたって言うけど、あの倉庫の扉、鍵が緩くて、簡単に外から開けられる構造だったはずだ。俺、子供の頃に何度も遊びに行ったことあるから知ってるんだ。」
徹はファイルを広げ、
地図を指差した。河川敷の古い倉庫。徹が昔、秘密基地として使っていた場所だという。
「英治が消える直前、会社の同僚に『大事な話がある』って連絡してたらしい。でも、その相手は今も特定されてない。警察は『自殺願望の表れ』で片付けたけど、俺は違うと思う」
徹の声に、静かな怒りが滲んでいた。
「誰かが英治を……そこに連れ込んで、火をつけたんじゃないか」
ひとみは息を飲んだ。
「そんな……」
「証拠はない。まだない。でも、俺は調べる。」
徹は立ち上がり、
ひとみの肩に手を置いた。
「ひとみは、もう十分苦しんだ。これ以上、お前を巻き込みたくない。でも、もし何か思い出したり、英治の持ち物で変なものがあったら……連絡してくれ」
ひとみは小さく頷いた。
徹が帰った後、部屋はまた静かになった。ひとみは窓の外を見つめた。外は雪が降り始めていた。徹の言葉が、胸に刺さる。自殺じゃないかもしれない。英治は誰かに殺されたのかもしれない。でも、それが本当なら、もっと怖い。
英治を失った悲しみは、別の形の恐怖に変わり始めていた。