佐竹哲郎は、重い気持ちで電話をかけた。呼び出し音の後、菊地英治が出た。

「もしもし、俺だ、哲郎。」 

「何、どうした。」

健人は声を詰まらせながら、事実を伝えた。

「ひとみが……亡くなった。自ら命を絶って……最後まで、お前のことを夫だと信じて、あいつは………」 

電話の向こうで、短い沈黙があった。やがて英治は、感情が完全に欠落した冷ややかな声で答えた。

「……そうですか。お悔やみ申し上げます。ひとみのご冥福をお祈りします」 

声は静かで、取り乱す様子も、驚きの色もほとんどなかった。ただ、淡々と、丁寧に言葉を返すだけだった。

そこには悲しみも、驚きも、罪悪感も一切感じられない。
「長い間、あいつには迷惑をかけられていたので、正直、負担が減ってほっとしています。お悔やみ……という形だけは述べておきます」
哲郎は言葉を失った。英治はさらに、抑揚のない冷淡な声で続けた。
「葬儀などはこちらからは参加しませんので、適当に対応してください。では、ご愁傷様です」 
それだけ言い終えると、英治はためらうことなく電話を切った。

彼はもう彼女の死など興味もないといった様子で日常に戻っていった。
彼の中で中山ひとみというヒトの死は、ただの過去のわずらわしい出来事として、静かに処理されただけだった。