中山ひとみは、根底から「自分は愛される価値がない」と信じていた。幼い頃から病弱で、人より目立つことが苦手。友達関係も薄く、恋愛とはいつも遠い存在だった。自分を「恋愛不適合人間」だと感じながら生きてきた。そんな彼女にとって、菊地瑛士は初めて本気で好きになった人だった。

瑛士の優しげな笑顔、落ち着いた物腰——すべてが、ひとみの中の「理想の光」になった。勇気を出してプロポーズした瞬間、彼女の心は震えるほどの希望で満ちていた。
「もしかしたら、あたしみたいな人間でも……」
その淡い期待は、瑛士の冷たい言葉で一瞬にして粉々に砕かれた。
「お前なんかと付き合えない。さようなら」
あの言葉は、ひとみの心の奥底に深く突き刺さり、抜けなくなった。
「やっぱりだめだった。あたしみたいなものを好きになる人なんていない」
それでも諦めきれず、彼の自宅を訪ねた日に彼がすでに居なくなったことを聞いた彼女は完全に自分を失った。
「存在しない価値の人間」だと、深く深く思い込むようになった。

一年後、透から「瑛士がひとみのことを愛していて本気で籍を入れようと思っている」と聞いたときは、心の底から喜んだ。
今までのすべての苦しみが報われる気がして、胸が熱くなった。
「瑛士くんは、あたしを必要としてくれているんだ。」
その喜びは、彼女の弱い心を一時的に強くした。エステに行ったり、彼の好きな料理を作ったりして彼が来るのを待っていた。しかし、届いたのは彼の死の報せ。その瞬間、ひとみの心は完全に崩壊した。
「やっと幸せになれると思ったのに………」
希望と絶望の落差が大きすぎて、思考が追いつかなくなった。過呼吸、パニック、自己嫌悪。
「あたしみたいなものがプロポーズしたから……あたしが弱いから瑛士くんは死んだ」
すべての責任を自分に負わせ、罪悪感で自分を責め続けた。

透は弱っていく親友をただ黙って見つめることしかできなかった。