中山ひとみの生気を吸い取ったソレは夜の街を歩いて いた。菊地英治の姿を借りていた頃の、穏やかな輪郭は完全に崩れ落ち、大きくて黒いサンショウウオのような姿へと変貌していた。3年間かけて育て上げた愛、信頼、希望、そして最後に訪れた絶望の極み――それらすべてが甘美な蜜のように凝縮され、ソレは食した。
「……美味かった」
声とも呼べない、低い振動が響く。人間の耳には聞こえない。ただ、空気がわずかに歪むだけだ。
ソレは次の獲物を求めて、静かに街を彷徨う。
闇は、次の恋を待つ。誰かの心に忍び込み、誰かの愛を育て、誰かの絶望を収穫する。永遠に。