私は物心ついたときから嘘をついて生きてきた。小学校の修学旅行で、好きな子の名前を聞かれたとき。「サエちゃん」って答えた。
でも本当は、隣で笑ってたタケルの横顔が頭から離れなかった。
ひとみが泣きながら告白してきたとき、私は「おれも好きだったよ」と笑った。
あれが、一番大きな嘘だった。ひとみは、男の人を怖がる子だった。触れるだけで震える。だから私にはちょうど良かった。触りたくないから優しくできる。キスも抱くことも「我慢」じゃなくて最初から欲しくなかった。ずっと私はひとみを使って自分を誤魔化した。
親の「早く結婚しろ」にも、「ちゃんと普通の男やってる」って胸を張れた。でも、夜は優馬の部屋に行った。優馬の首に腕を回すと、やっと息ができた。やっと、自分でいられた。
ひとみにプロポーズした日、トイレで吐いた。「これでいいんだ」って自分に言い聞かせた。でも、限界だった。
式の一週間前、優馬が泣きながら言った。
「もう我慢できない。えいじくんがぼくじゃない人と結婚するのが耐えられない」
私は震えながら頷いた。そのとき、初めてひとみをどれだけ傷つけるか、わかった。
でも、もう戻れなかった。教会で「誓いません」って叫び、優馬と手を取り合って走り去った私は振り返らなかった。ひとみがどんな顔をしてるか全く気にならなかった。
北海道に来て、ヤギの世話をしながら私は思う。私はひとみを愛してなどいなかった。ただ利用しただけだ。彼女の震える手を握って「大丈夫だよ」って嘘をつき続けた。私は彼女のトラウマを利用して自分の秘密を隠した。最低な男だった。でも、今はもうあの日のことは思い出さないようにしてる。
優馬と犬と一緒に暮らすこの場所でやっと、私は本当の自分になれた。
ひとみ、ごめん。お前を傷つけたこと、一生、後悔してる。でも、私はもう戻れない。私が選んだのは偽りのないこの人生だった。だからどうか私のことは、忘れてほしい。