第一章:告白と玉砕
ひとみは、中学で出会った頃から菊地英治に心を奪われていた。穏やかな笑顔、優しい声、そしてどこか憂いを帯びた瞳。英治はひとみにとって、まるで手の届かない星のようだった。それでも、彼女は3年間、ひっそりと想いを募らせていた。
ある秋の夕暮れ、ひとみはついに勇気を振り絞った。駅前で、英治を呼び止め、震える声で告白した。
「菊地くん、ずっと好きでした。付き合ってください!」
英治は驚いた表情を浮かべ、しばらく黙っていた。そして、申し訳なさそうに口を開いた。
「ごめん、中山。気持ちは嬉しいけど、俺、冴子と結婚を前提に付き合ってるんだ。」
その言葉は、ひとみの心を鋭く突き刺した。彼女は笑顔を無理やり作り、
「そっか、やっぱりそうだよね。大丈夫!ありがとう!」と言ってその場を去った。
家に帰ると、ひとみは布団をかぶり、静かに涙を流した。
第二章:高校卒業後の再会
それから10年が過ぎ、ひとみは出版社で編集者として働いていた。英治のことは、頭の片隅に残りつつも、日常の忙しさに押し流されていた。ある日、仕事で訪れたカフェで、ひとみは見覚えのある背中を見つけた。
「菊地…くん?」
振り返ったのは、紛れもなく英治だった。いや、英治にそっくりな男だった。彼は柔らかく微笑み、「ん、君は中山ひとみ?」と答えた。ひとみは動揺しながらも、懐かしさに心が揺れた。
会話は弾み、ひとみは再び英治への想いが蘇るのを感じた。別れ際、彼女は衝動的に言った。
「菊地くん、あたし、まだあなたのことが好きなの。付き合ってくれませんか?」
彼は一瞬、驚いたように目を見開いたが、すぐに優しく微笑んだ。
「うん、いいよ。君と付き合いたい。」
ひとみは信じられない思いで胸がいっぱいになった。奇跡が起きたとしか思えなかった。
第三章:運命のいたずら
それから、ひとみと「英治」の交際は順調に進んだ。彼は以前より少し無口で、趣味や好きな食べ物も微妙に違っていたが、ひとみは「10年の間に変わったのかな」と深く考えなかった。デートを重ねるごとに、ひとみは彼との未来を夢見るようになった。

ある日、ふたりで訪れた公園で、彼がふと口を開いた。
「ひとみちゃん、実は俺、菊地英治じゃないんだよね。」
ひとみは笑いながら、「え、なにそれ、冗談?」と言ったが、彼の真剣な表情に言葉を失った。
「俺の名前は秋山英輔。英治の双子の兄だ。俺たちは子供の頃、親の離婚で離れ離れになった。」
ひとみは凍りついた。頭が真っ白になり、言葉が出てこなかった。英輔は続けた。
「最初は、英治と間違われたまま話すのが楽だった。でも、君のことが好きになった。ごめん、黙ってて。」
ひとみは涙をこらえながら、英輔を見つめた。彼の瞳は、確かに英治と同じだった。でも、そこには英治とは違う、英輔だけの優しさがあった。
第四章:新たな一歩
ひとみは悩んだ。英治への片思いが、英輔との現実の愛に変わっていくことに戸惑いを感じながらも、英輔の真っ直ぐな気持ちに心が動かされていた。
ある夜、ひとみは英輔に電話をかけた。
「英輔さん、私、最初は英治さんだと思ってた。でも、今は英輔さんが好き。ちゃんとあなたを見て、向き合いたい。」
英輔は、ほっとしたように笑った。「ありがとう、ひとみ。俺も、ちゃんとひとみと未来を作りたい。」
ふたりは新たな一歩を踏み出した。ひとみは、片思いの終わりが、思いがけない運命の始まりだったことを、いつか笑って話せる日が来ると信じていた。