「ごめん、ルミ。俺、付き合ってる子いるんだ。気持ちは嬉しいけど…ごめんな。」
一瞬、時間が止まった。ルミは息を吸うのも忘れた。相原徹の優しい言葉が、逆に胸を締め付けた。そう彼女はものの見事にフラれたのだ。
ルミは唇を噛みしめ、目の前に立つ徹の顔を見上げた。夕暮れの校庭、柔らかいオレンジ色の光が彼の輪郭を縁取り、いつもより遠く感じさせた。彼女の心臓はまだドクドクと鳴っていて、さっきの告白の瞬間が頭の中で何度もリピートされていた。徹の言葉は優しかった。でも、その優しさがまるでナイフのようにルミの胸を切り裂いた。
「う、うん…大丈夫。気にしないで。」
ルミはなんとか声を絞り出し、笑顔を作ろうとした。でも、口角が震えて、すぐにバレそうな偽物の笑みしか浮かべられなかった。徹は少し困ったように眉を下げ、彼女の肩にそっと手を置いた。
「ルミ、ほんと、ごめん。こんな気持ち、初めてだったから…どう答えたらいいか、わかんなくて。」
彼の声は低く、どこか申し訳なさそうだった。ルミは彼の手の温もりを感じながら、喉に詰まった言葉を飲み込んだ。初めてって何? 私の気持ちが? それとも、こんな風に誰かを傷つけるのが? 聞きたいことは山ほどあったけど、どれも口に出せなかった。
「…いいよ、先パイ。気持ち、伝えたかっただけだから。」
ルミは一歩下がり、彼の手をそっと振り払った。彼女の目は地面に落ち、校庭の砂利が妙に鮮明に見えた。そこには、さっきまで彼女が握り潰していた勇気の欠片が散らばっている気がした。
「ルミ、友達としてはこれからも—」
「うん、わかってる!」
ルミは慌てて徹の言葉を遮った。友達。友達。その言葉が、彼女の心に新たな重しを加えた。友達でいることなんて、きっと耐えられない。少なくとも、今は。彼女はバッグを肩にかけ直し、くるりと背を向けた。「じゃあ、わたし、帰るね。」
「ルミ…」徹が何か言いかけたけど、ルミは振り返らずに歩き出した。校門までの道はいつもより長く感じられた。夕陽が彼女の影を細く伸ばし、まるで彼女の心の傷を地面に映し出しているようだった。
家に着く頃には、空はすっかり藍色に染まっていた。ルミは自室のドアを閉め、ベッドに倒れ込んだ。枕に顔を埋めると、ようやく涙が溢れてきた。悔しかった。徹のことが好きだった。初めての告白で、こんな結果になるなんて思ってもみなかった。彼女は徹の言葉を思い出した。
「付き合ってる子いるんだ。」
その子の顔が、ルミの頭にちらついた。どんな子なんだろう。きっと可愛くて、優しくて、徹にぴったりの子なんだろう。
ルミは深呼吸して、枕から顔を上げた。窓の外では、星が静かに瞬きだした。彼女は立ち上がり、机の上のレポート用紙を開いた。そこには、徹への気持ちを綴った手紙の下書きが残っていた。告白する前に何度も書き直した、情けないほど真剣な言葉たち。ルミはそれをじっと見つめ、そっとページを破り取った。
「もう、いいよね。」
彼女は自分に言い聞かせるように呟いた。破った紙をゴミ箱に放り込み、ルミは新しいページを開いた。そこに、ペンを走らせた。
今日、わたしは先パイにフラれた。すごく辛いけど、なんか、ちょっとだけスッキリした。だって、気持ちを伝えられたから。わたし、意外と強いかも。
書き終えると、ルミは小さく笑った。涙はまだ乾いていなかったけど、胸の奥に小さな火が灯った気がした。徹のことは、きっとしばらく忘れられない。でも、ルミは決めた。自分の物語は、ここで終わらない。新しいページは、もう始まっているのだから。