「オードリー」の春日俊彰は、その日、いつものようにピンクのベストをまとい、 緊張した面持ちでテレビ局のスタジオにいた。レギュラー出演しているバラエティ番組の収録だと思っていたのだが、スタッフに連れてこられたのは、やけにカラフルで、子供たちの嬌声が響く別のスタジオだった。
「あれ?ここ、間違ってないですか?」
春日が戸惑いながら尋ねると、にこやかな笑顔のプロデューサーが近づいてきた。
「春日さん、今日はスペシャル番組の収録なんです。『教えてカスガ先生』という子供たちに楽しく学んでもらう教育番組で、春日さんにはメインMCをお願いしました!」
「メインMC!?」
春日は目を丸くした。教育番組など、これまで縁もゆかりもない。トゥースとあぱーでやってきた自分が子供たちの教育にどう役立つというのだろうか。
番組が始まると、春日の不安は的中した。アシスタントの可愛らしい女性アナウンサーが、世界の珍しい動物や昆虫を紹介するVTRを流すのだが、春日はそのたびに的外れなコメントを連発する。
「なるほど!このカピバラという動物は、非常に春日っぽい顔をしていると言えるでしょう!顔のパーツの配置が、私にそっくり!」
子供たちはポカンとした顔で春日を見つめ、スタジオには微妙な空気が流れる。女性アナウンサーは苦笑いを浮かべながら、VTRの内容を補足説明するのに必死だった。
さらに、番組の目玉コーナー「カスガ先生のあぱー実験」が始まると、事態はさらに悪化する。用意された実験は、子供向けの簡単な科学実験のはずだったのだが、春日はなぜか独自の解釈を加え、危険な方向に暴走してしまう。
「さあ、みんな!今日はこの謎の液体と謎の液体を混ぜて、驚きの化学反応を起こすぞ!トゥース!」
春日が勢いよく二つの液体を混ぜ合わせると、スタジオには刺激臭が立ち込め、小さな煙が上がった。子供たちは咳き込み、女性アナウンサーは顔面蒼白になった。
「春日さん!それは劇薬と漂白剤です!絶対に混ぜてはいけません!」
「なんですと!?こりゃ、大の変失礼いたしました!」
春日は慌てて頭を下げたが、子供たちの目は完全に恐怖に染まっていた。
番組の収録は、その後もハプニングの連続だった。春日は世界の国旗を当てるクイズで、全く見当違いの国旗を自信満々に掲げ、民族衣装を紹介するコーナーでは、なぜか自分のピンクのベストを「これが所沢の正装だ!」と主張した。
番組がオンエアされ、プロデューサーが申し訳なさそうな顔で春日のところにやってきた。
「春日さん、『教えてカスガ先生』視聴者からの反響が、想像以上に大きくて…」
プロデューサーが差し出したタブレットには、番組に対する視聴者のコメントがずらりと並んでいた。
「教育番組史上、最も子供に悪影響を与える番組」
「春日さんのせいで、うちの子が『あぱー!』しか言わなくなった」
「二度と春日を教育番組に出さないでください」
春日は、 自分の犯した罪の大きさを痛感した。得意の「あぱー!」は、教育の現場では全く通用しないどころか、混乱と恐怖を招くだけだったのだ。
数日後、春日のもとに、番組の打ち切りと、彼への出演料の支払いは見送られるという連絡が来た。しかも、春日はしばらくの間、 テレビ出演のオファーが途絶えるという、手痛いしっぺ返しを受けることになった。
しかし、春日はこの経験を決して無駄にはしなかった。彼は深く反省し、子供向けの番組に出演する際には、事前にしっかりと内容を勉強するようになったという。そして、いつか子供たちが「あぱー!」と笑顔で言ってくれる日を夢見ているのだ。